[ココワ恋愛同盟]2

A.炎緒がいる一年の教室


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 俺は、炎緒のクラスに行ってみた。
 入口から覗いてみると彼女はひとけのなくなった教室で独り、ぽつんと窓際にいる。
 ぼんやりと、あごを手に乗せ校庭を見ていた。いつもの彼女にはないアンニュイな雰囲気が漂っていた。なにやら、ため息までついている。
「はぁ……祐介様……」
 俺の名前を呼ばれドキリとする。
 てか独り言も声がデカイぞ、おまえ。
「平凡。普通。なんて素敵な響きなんだ。祐介様こそ、理想の普通さをお持ちのかた!」
 立ち上がって歌い出す。
「ああぁー! 祐ー介様ぁぁぁ! お慕いー申し上げておりますぅぅぅ!」
 なんだこのミュージカル。
「おまえ、いいかげんにしろ!」
 我慢できずにツッコミを入れる。
 炎緒が俺の声を聞いて、もの凄い勢いで振り向いた。
 その目が異様な光を帯びている。
「おおおお! 祐介さンまぁぁぁぁぁッ!」
 犬。
 まさしく犬だ。しかも大型の狩猟犬。
 それが猛突進してくる。
 目を輝かせ、今にもよだれを垂らしそうになりながら。
「来てくれたんですくぅぁぁぁ! うぅぅれしぃぃぃじょすぅぅぅっ!」
 うん、壊れかけてる。やばい。
 俺はちらりと俺の背後の窓を確認する。開いている。よし。
 一年の教室は一階にある。彼女ならば窓から飛び出しても、大したことはない。そう判断した。
 俺は激突を回避するため、ぶつかる寸前で身をかわした。
「えええっ?!」
 彼女は勢いを止めることが出来ず廊下に飛び出し、案の定、窓から外へ放たれた。
「あああ――ッ!」
 予想通り、ごろごろと勢いよく転がる音がした。
 やがて、どしっ、と肉が壁にぶつかる音。中庭の向こうにある別の棟に彼女が当たった音だ。
 振り返って見ると、その辺を歩いていた生徒達が口々に驚きの声を上げている。

 俺は廊下から彼女の元に駆け寄った。彼女は逆さまになってお尻を壁に付けるような格好で、完全に目を回していた。
 もちろん、スカートは思い切りめくれている。形の良い引き締まった脚の根元に、赤と白の横縞の布が目に入った。
「パンツ見えてるぞー」
 彼女はその言葉で気がついた。顔が真っ赤になる。
 素早く脚で壁を蹴り、スカートを片手で押さえつつ、くるりと反転した。体操選手のような無駄のない動きだ。
 炎緒は立ち上がると一歩、俺に近づいて。
 半分泣くように見上げてヘンな唸り声を出した。
「うぎゅううう……」
 ちょっと可愛いかも知れない。
「ごめん、ごめん。あんまりすごい勢いだったから」
 彼女がなにかつぶやいた。
「いい……祐介様なら……いや、いっそのこと……」
 だが、ハッキリとは耳に入らなかったので聞き返した。
「なんだって?」
 炎緒は、叫んだ。
「祐介様ぁぁぁッ! いっそ、ヤっちまってくれぇぇぇッ!」
 周りの生徒達がそのとんでもない叫びに驚いて振り向く。
 彼女が俺の胸に飛び込んでくる。
 俺は彼女に押し倒されながら。
 巴投げ。
「えええ――っ?!」
 まさか、という顔と共に彼女は植え込みの中に突っ込んだ。
 茂みの中から炎緒の弱い声がする。
「ゆ、祐介様……さすが、ですぅぅぅ」
 両足が天を向き、またパンツが丸見えになっている。
 俺はその足を引っ張り、植え込みから引き抜いた。
「ごめん、ごめん。あんまりすごい勢いだったから」
 彼女は俺を見上げてまた唸った。
「うぎゅううう……」
 俺は少し笑って、にこやかに手を差し出す。
「さ、帰ろうか」
 彼女は俺の顔とその手を交互に見つめた。
 やがて頬を赤らめ、ぱぁっと明るい表情になった。
「ズルい! ズルいです、啓介様ぁぁぁッ」
 彼女は叫んで俺の手に噛み付いた。
「あだだだ! 俺の手は餌じゃね――!」
「んふふふ!」
 最初は驚いて痛いと思ったが、実は甘噛みだった。まさに野生児。
 こういうとき、無理に手を引き抜くと危ないと聞いたことがある。まあ、動物の場合だけど。でも、こいつも同じようなものだ。
 とりあえずしばらくは、その状況に耐えることにした。
 周りの生徒達が眉をしかめてヒソヒソ。
 そんな中の誰かの声が耳に飛び込んだ。
「うわぁ、めちゃめちゃマニアックなキスしてるよー」
 そう思ったら俺の顔は紅潮した。
 もちろん、炎緒は聞いちゃいねぇ。うん。やっぱこいつ、色気とは無縁だ。

 ある程度噛んで満足したのか、口を離す。
 よだれを拭って真っ直ぐ俺を見つめた。なんて熱いまなざし。
 犬ならば、しっぽをちぎれるほど振っているのだろう。
 またこれは飛びかかって来るに違いない。そう思って、身構えていると急に目を伏せた。
「こ、今夜、ドライブしてくれませんか?」
 言っている意味を理解するのに、五秒。
「は? なんだそれ。俺もおまえも高校生だし、免許なんか持ってないだろ」
 炎緒は、にんまり笑って答えた。
「来れば分かります。それじゃあッ! 明日の朝三時、峠のてっぺんにあるロータリーで待ってますッ!」
 明るく手を振って、猛ダッシュで帰って行った。

 言ってることがムチャクチャだ。なんなんだ、朝三時って。今夜じゃねーよ。
 それに……あの峠って確か、走り屋が毎晩レースしてるって噂だし。
 時間的にもちょうどそのくらいの時間だって聞くし……。
 だいたい俺、そんな怖いトコ、一度も行ったことないんだけどなぁ。
 俺はぶつぶつ言いながら帰路についた。

 午前二時半。
 目覚ましが鳴る。素早く止める。
 俺は夕食の後すぐに眠った。おかげで一応、寝覚めはスッキリしている。
 俺は適当なジーンズとパーカーに着替えた。
 静かに廊下に出る。
 家族は当然、寝静まっている。
 ウチは家族も普通だからな。
 真面目なサラリーマンの親父と、パートに出てるお袋。中三の生意気な弟。
 ニュースなんかでよく聞く、モデル家庭ってヤツだ。
 俺はなんとかこっそり、まだ二十年以上ローンの残っているマンションを後にした。

 夜道を自転車で峠に向かう。
 こんな時間に出歩くなんで、初めて……とは言えないけど。
 眠れなくてコンビニに行ったりしたことはあるから。
 でも、遠くに行くのは初めてだ。
 まだ昼は暑いけど、このくらいの時間はもう秋の気配がする。
 やたらと自転車の音がうるさく感じた。

 深夜の峠道を登る。
 やがて、体力の限界に近づいた頃、やっとロータリーに着いた。
「ぐは……死にそう……」
 突然、目の前に車と人混みが広がる。
 色とりどりのマシンから爆音が響く。
 たくさんの早そうなスポーツタイプの車が、エンジンを吹き上げてるんだ。
 ライトがまぶしい。
 俺はヘトヘトになりながら、ギャラリーのほうへ行ってみる。
 みんな大学生っぽい。見た目に普通な人もいるが、やっぱり怖い感じの人のほうが多い。
 彼らはやや興奮気味で、口々に話し合っていた。
「やっぱ、亮介さんのシビックが下り最速だろう」
「いやいや、巧のゼットに間違いない」
 よく解らないがたぶん、これからレースが行われるのだろう。
 明らかに俺は浮いていた。
「てか、まさか炎緒のヤツ、あの中のどれかに乗ってたりするのか? でも、あいつがそんな連中の仲間だなんて……」
 あと、一分で午前三時ちょうどだ。
 車二台が横一列に並んだ。ここからくだる準備ができたのだろう。
 旗を持った男が脇に立った。
「炎緒のヤツ、どこにもいねーじゃんよー」
 俺はきょろきょろ、あたりを見回したが見つからなかった。
 観客がカウントダウンを始めた。
「三!」
 二台の車の爆音が同時に響く。
「二!」
 場の空気が緊張に包まれた。
「一! ゴー!」
 旗が振り下ろされると同時に、車が爆走して行く。
 そう思っていると、ふいに俺の身体が後ろから引っ張り上げられた。
「おわあっ?!」
 俺は宙を舞っている。このまま落ちれば今、車が待っていた路面に激突だ。
「お待たせッ!」
 車の爆音にも負けない大声。
 驚いて下を見ると、ちょうど俺が落ちていく場所に炎緒がいた。
 空手か何かの道着姿。
 満面の笑みで親指を立てていた。
「さ、行きましょうッ!」
 墜落してきた俺を、なんなく腕にシッカリと受け止める。
 マジデスカ。
「深夜のッ! ドォォォライブデ――トォォォッ!」
 彼女は戸惑うギャラリーを無視し、車の後を追うように猛スピードで走り始めた。
「ど、ドライブって、おまえに乗ることなのかよ!」
 炎緒は、顔を真っ赤にしてニカッと笑った。
「祐介様! オラの本気を見てくださいッ!」
 また俺を放り上げた。今度は前方だ。
 炎緒は素早く俺の下に入り、背中で受けた。おんぶだ。
「いっくぞォォォォッ! コスミック・セット・オォォォフッ!」
 掛け声と共に道着が弾け飛んだ。
 今回はスクール水着ではなかった。いわゆるフィットネスウェアだ。
 明るいオレンジとピンクのスパッツに、お揃いのブラのような上着。
 どちらもまるでボディペインティングのように身体にピッタリと張り付いている。
 布がない腹のあたりは腹筋がスゴイ。
「ンゴォォォォッ!」
 炎緒は擬音だかなんだか解らない叫びを上げて、峠道を高速で下った。
 道路の曲がりかたに合わせて、恐ろしいGが掛かる。
 頭が道路脇の岩に擦れそうになるかと思えば、反対側の奈落の底に向かって頭が飛び出す。例えジェットコースターでもこんな設定にはしないだろう。
 俺も思わず叫んだ。
「だれか、たすけてくれー!」
 だがそれは、ほとんどかすれて声になっていなかった。

 前方で、二台のスポーツカーがデッドヒートを繰り広げているのが見えた。
 タイヤが凄まじい音を立てながら、コーナーをクリアしていく。
 炎緒もそれを見ているはずだ。だが、スピードは落ちない。いや、さらに加速している。
「どぉりゃぁぁぁッ!」
 ぐんぐんと、二台のテールランプの瞬きが近づく。
 車同士の距離は、数センチしかない。そんなギリギリのところで彼らは車を操っているんだ。もし、そんなところにいきなり人間が飛び込んだら、大事故になるに決まってる。
 俺は、なけなしの腹筋と腕の力を使って炎緒の背中に身体を密着させた。
 このまま突っ込んで大事故起こすつもりか! やめろ!
 俺はそう口を動かした。だが、やはり、ほとんど声としては形を成さなかった。
 だが、炎緒は反応した。
「えええッ! こ、こんな所で、こんな格好のまま、つ、突っ込みたいなんてぇぇぇ! 祐介様、変態ですかァァァッ!」
 ほほを紅潮させながら目を輝かしている。ダメだ、こいつ。
 バカなことを言っているウチに車はコーナーを抜け、直線に入った。
 もう車まであと十センチもない。
 マフラーから爆音が轟く。タイヤが悲鳴を上げる。
「で、でもッ! 祐介様がお望みならッ! オラ、オラ、オラァァァァッ!」
 その叫びと共に炎緒は跳躍した。
 車の天井に一瞬、つま先を着いて。
 まるでフィギュアスケートのようにくるりと回り。
 また跳ぶ。
「ドライブに出たら男はその気になりやすいって、宙中先輩の言ったとおりだぁぁぁ」
 園伽さんのせいだったのか、これは! 生きてたら絶対あとで問い詰めてやるッ!

 次の瞬間、俺たちは車の真正面に着地した。
「うわぁッ!」
 だが、炎緒は間髪を入れずに猛ダッシュを掛ける。
 スポーツカーの運転手も、さすがに走り屋だけのことはあった。
 異常事態を察して、見事なテクニックで車を止めた。
 良かった……。大事故にならずに、ほんとうに良かった。
 俺は涙が出てきた。
「そ、そんなにオラと?! ふんむぅぅぅ! こ、これは祐介様の気が変わらないうちに、し、静かなところへ行くしかぁぁぁッ!」
 二台の車からどんどん離れていく。俺はそれを、とにかくホッとした気持ちで見ていた。
 やがてドライバーたちが出てきた。もう遠くてよく見えないが、どうやら俺と炎緒を、ぽかんと見送っているようだ。
 まあ、有り得ない光景だよな……。

「ああん、祐介さまぁ……いやあ! 変態ぃぃぃ!」
 俺たちは学校の近所にある公園に来ていた。
「このバカ! なんつー寝言を大声で!」
 俺は慌てて炎緒の口を押さえた。
 どうやら、こいつにも体力の限界はあったようだ。
 公園に着いたとたん、まるでスィッチが切れたかのように眠り込んでしまった。
 そのへんに放置しておくわけにもいかないので、とりあえずベンチで膝枕をしてやっているのだ。
 そろそろ夜が明けてくる。
 どーしたもんかなぁ。俺も帰らないとマズいしなぁ。
 俺はその無邪気な寝顔を見下ろした。
「そう言えば俺、こいつのこと、何も知らねぇな……」
 性格や容姿じゃない。例えば、どんなトコに住んでるのかとか、家では普段どうしてるんだろうとか。
 ちょっと気になるかもしれない。

 そう思うと、なんだか急にドキドキしてきた。
 無駄のないスリムな身体。派手な色のスパッツがあまりにも正確に、腰からふともものラインを闇に浮かび上がらせている。
 女らしさとは無縁だと思っていたが、それでもほんの少し、尻に丸みがある。
 腹筋も普通にしていると目立たず、滑らかだ。
 胸も男のように大胸筋だけではない。大きくはないがそれでも、ちゃんとある。それがゆるやかに上下している。
 触ると柔らかいのかな……。
 思わず、手が伸びそうになる。
「ううん、ダメですぅぅぅ……んにゃにゃ……」
 俺は一瞬、跳び上がりそうになった。
「ご、ごめ……?」
 だが、起きたわけではなかった。
 息を整え、改めてその顔をまじまじと見る。
 顔立ちも整っては、いる。少し幼さもあって可愛いと言っても良いかもしれない。
 薄く開かれた唇は薄いピンクだった。
 呼吸が静かに聞こえる。
 これも柔らかそうだな……。
 うわ、やべ。俺、顔、赤いんじゃね? こんなに間近で、女の子を見ることなんてないもんな……。
 いつも過激に好きだって言ってくるこいつ。
 真っ直ぐで、無邪気で、憎めないヤツ。
 今日だって俺とずっと一緒に居たいから、あんなムチャしたんだよな。

 俺はちょっと微笑んだ。
 もしかすると、あんな目に遭ったくせに……俺、こいつのこと……

「にふーん?」
 どこからか不思議な声が聞こえた。
「にっふにっふー」
 俺は顔を上げて、左右を見回した。
「ここだよー」
 後ろを振り返ると、植え込みの向こうに唐突に石垣があった。というか石垣の模様の布だ。上にそれを掴む指が見えた。
「ふっふっふっ。あたしがどこにいるか、解るかね、明智クン」
 その声の主の棒読みに力が抜けた。
「園伽さん……ですよね。その石垣模様の布はなんですか」
「流石だね! 金田一君! 見つかったのなら仕方ない」
 彼女は布をまるでマントのように勢いよく羽織る。
 中の黒いワンピースに、その石垣柄がなぜか妙にマッチしている。
 ふわふわとした亜麻色の髪に猫耳カチューシャも健在だ。
 どこからかマジシャンのようなステッキと付けヒゲを取り出し、装着した。
 俺が呆気に取られていると、俺の目を見て真面目な顔をした。
「炎緒ちゃん、可愛いよね。でも、負けないよ」
 ニパッと笑うと、パチンと指を鳴らした。次の瞬間、バフッと煙幕が広がる。
「それではごきげんよぅー! ふははは」
 そう言い残して彼女は煙の中に消えた。
「なんだったんだ、いったい……」
 煙が晴れると、そこには俺の自転車があった。
「これは……。そうか、ロータリーに置きっぱなしだったっけ。じゃあ園伽さんは、これをわざわざ?」
 ありがとう……って、ちょっと待て。これってよく考えたら、俺、監視されてるんじゃねーの? えーと。もはや不思議っていうより、そら恐ろしいんだが。
「あ、ドライブ計画のこと問い詰めるの忘れた! チェッ」

「ううーん……祐介……さま……?」
 炎緒が目覚めた。
 まだ、眠たそうだ。だが、すぐ大きく目を見開いた。
 状況を把握したのか、唐突に飛び起きる。
「うっわぁぁぁッ!」
 炎緒は顔から火を出しながら、ベンチの上で土下座をした。
「もう、なんか色々ごめんなさいッ! オラ、オラ……!」
「いや、気にすんなよ」
「でッ、でもぉぉぉッ!」
 ほとんど泣いている彼女の頭に手をやって。
 軽く撫でた。
「ちょっと怖かったけど、まあ、なんていうか、面白かったからさ」
 笑いかけると彼女も少し笑う。
「うう、ありがとおッ……祐介様……!」
 あ、こいつ、犬の目になった。
「祐介さンまぁぁぁぁぁッ! 好っきどぁぁぁぁッ!」
 思った通り飛びついてくる。
 俺はあえて、それを避けなかった。
「ぐほっ!」
 彼女の全体重が俺に掛かる。痩せているとはいえ、人間だ。やはり重い。
 だが俺はその重さが、とてもリアルに感じられた。
「あ、あれっ? 祐介様、避けないんですね……」
 俺の胸で、珍しく小声の炎緒。
 あんなに走ったのに汗臭くはない。逆に、髪からはセッケンの良い匂いがする。
 シャンプーじゃないところが、こいつらしいや。
 柔らかい胸が押しつけられている。やっぱ、女、なんだな。
「ん、ムチャクチャだったけど、楽しかったから……まあ、そのお礼みたいなもんだ」
 炎緒は涙声で俺を強く抱きしめる。
「祐介様……ホント、ズルイですよ……っ」
 ぺき。
「うごっ!」
 今、肋骨のあたりからイヤな音がシマシタヨ?
「ほ、炎緒サン? も、もう、ちょっと、ゆるめへごぉッ!」
 ああ、締め上げられるとホントにミシミシ、音がすルんダー……ってヤバイ、意識が遠のく! 俺は慌てて、その腕をタップ!
 さすがに武術家だ。タップは効果がある。炎緒は自分のやっていることに気が付いた。 素早く俺を放して、また土下座する。
「ご、ごめんなさいいいいッ! つつつい嬉しくてぇぇぇッ!」
 やっぱ、こいつに付き合ってたら、命がいくつあっても足りないみたいだ。
「い、いや。まあ、いいよ。じゃ帰ろうか」
 俺はなんとか立ち上がり、彼女の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「はいっ! 祐介様っ!」
 まぶしい朝の光の中、俺たちはゆっくり帰っていった。

 それからしばらくして走り屋たちの間には、下り最速のおんぶお化けが出る、という噂が広がったのだが俺がそれを知るのは、ずっと後になってからだった。

END


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