アピールタイム
名前は、宙中 園伽(そらなか そのか)。
とにかく彼女の言動は、いつもよく解らないが、俺のような凡人には、思いもつかない行動原理を持っているのだろう。
見た目に寄らず、運動神経も良いし、勉強も出来る。
「冷めてもおいしいでしょ? それこそが、宇宙の真理だよ」
次に俺は、肉の入ったタッパーに箸を進めた。
「おまえの焼き肉も、ジューシーだし」
黒く日焼けしたスレンダーな女生徒が、ガッツポーズを取る。
「よっしゃぁぁぁ! それ、オラが焼いたんだぁぁぁ! こんな嬉しいことはないぃぃぃ!」
この暑苦しい赤毛で短髪の女子は、昇龍寺 炎緒(しょうりゅうじ ほのお)。一年生だ。
なんでも昇龍寺流格闘術の正当後継者だそうだ。
だから運動だけを取ると、すでに様々な大学から推薦入学のオファーがあるくらいだ。
でも勉強はからっきしで、特に英語は全くダメ。常識の範囲ですら解らない。
その彼女の、勝手に袖を無理矢理引きちぎったに違いない、ノースリーブの制服から覗く腕は筋肉質だ。
艶っぽさとは無縁で、どちらかというと少年っぽい。
俺はさらに、大きなタッパーの野菜を頬張った。
「氷羽(ひょうは)の野菜も新鮮で甘いねー」
長身でスーパーモデルのような女生徒が、微笑み、眼鏡を中指でツイ、と上げる。
「そうだろう? わたしの家の庭で栽培した物だ。もちろん有機農法で、無農薬だぞ」
彼女はウチのクラス委員長、冷峰 氷羽(れいほう ひょうは)だ。
この町内では名の知れた、冷峰家のお嬢様。見事な黒髪と、その美しい瞳。
独特の男口調だが、いつも優しく冷静に物事を判断し、実行する。
もちろん、彼女もずば抜けた運動能力と頭脳を有する。クラスの憧れの存在だ。
「ごちそうさま! ありがとう、みんな、おいしかったよ」
俺が礼を言うと、三人はそれぞれに返答した。
「あたしは、米を食べるゆうちゃんも好きー」
「へへへ、祐介様が普通に、オラの肉を食べて下さるのが嬉しいぜぇぇぇ! あああー! もう! だいッ好きだぁぁぁ!」
「どうだ、祐介。わたしと結婚すれば、いつでもその野菜を使って、もっとおいしい料理を食べさせてやるが?」
俺は曖昧に笑うだけだった。
氷羽は、ふむ、と不満そうに腕を組んだ。
「しかたないな。では、アピールタイムを終わろう。放課後は、祐介の自由行動に任せる。みんな、抜け駆けは無しだぞ。良いな?」
「おぅッ! ココワ恋愛同盟に掛けて、誓うぜッ!」
「ほーい! 掛けてぇ!」
三人は、それぞれの教室に戻った。
さて、放課後になった。
どうする?
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