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 自己紹介が済んで、その後は委員を決める事になっていた。
 選挙ではやはり、今年もわたしがクラス委員長になった。
 だが、わたしは今までとは違って、もうひとつ委員を兼任することにした。

 わたしには安藤先輩に追いつきたいと思っているところがあった。
 だが、安藤先輩のようにクラブの部長とクラス委員長を兼任するのは難しい。
 それでも、比較的楽な別の委員ならできるだろうと思ったのだ。
 それは図書委員だった。

 やがて放課後になった。
 今日は授業はない。明日からだ。

 わたしは帰る準備をして、明信君の席に行こうとした。
 だが、何人かの男子女子に取り囲まれてしまう。
「花鳥さん、部活何? 俺、テニス部なんだけどさ……」
「ねぇねぇ、涼夏ちゃんって呼んでも良いかなぁ」
「どこらへんに住んでんの? 教えてよー」
 わたしがその攻勢にどうするべきか苦慮していると、よく知っている声が響いた。

「涼夏が困ってるだろう。気持ちは解るが、これからいつでも聞けるんだし、焦らなくて良いじゃないか」
 悠だった。
 悠に諭されたクラスのみんなは、納得したようだ。
「それもそうか。また明日、聞くよ。じゃね、花鳥さん」
「さよなら、花鳥さん」
「ああ。さようなら」

 わたしはみんなを手を振って見送ると、ホッとした。
 残ったのはいつもの料理部メンバーと沙原君だ。
 悠に向き直ると、礼を言った。
「すまん。悠」
「いや、良い。だが、それにしても涼夏は人気者だな」
「ああ。いつの間にか、な」

 沙原君がわたしに近づいた。
 微笑んで、わたしに手を差し出す。
「改めて初めまして。ぼくは沙原直之です」
 わたしは立ち上がって握手を交わした。
「こちらこそ、初めまして。花鳥涼夏です」
「いつも花鳥さんの事はミュウマから聞いてます。素直でまっすぐで格好いい人だって」
「そんな……」
 わたしはまた照れてしまう。
 沙原君はまるで、大人の男性のように物腰が穏やかでスマートだ。
 これは佐藤さんでなくても、心が揺れるだろう。

「委員長、みんな。帰ろうぜ」
 明信君がわたしと料理部メンバーに声を掛けてきた。
 どこか憮然としている。
 嫉妬しているのかも知れない。
 わたしはそれを可愛いと思う。
「ああ。そうだな。じゃあみんな、帰ろう」

 佐藤さんがもじもじと何か言いたそうにしている。
 それを見た沙原君は、わたしたちに言った。
「ミュウマはぼくと帰りたいそうなので、ぼくたちはここで失礼しますね。ではまた明日」
 彼は佐藤さんと並んで、にこやかに手を振った。
 佐藤さんはぴょこんと頭を下げた。
 二人は手を繋ぐと、微笑みながら教室を出て行った。

「いいなー、羨ましいなー」
 わたしはドキリとした。思っていた事が口に出たのかと思ったからだ。
 だが、それは真帆さんだった。
「ね、ペネトレイト=レクイエム姉ちゃん?」
 問いかけられた悠は、うんざりした様子で返答した。
「いや、わたしは別に羨ましくない。それと、その二つ名とかいうのはやめてくれ。だいたい長いだろ」
「短ければいいの?」
「そう言う問題じゃない」
 今度はわたしが二人を止めた。
「まあ、真帆さんが気に入ってるんだから、しばらくはそれで我慢しろ」
「む……」
 悠は露骨に嫌な顔をしたが反論まではしなかった。

 わたしたち四人は下校した。
 駅前まで来たところで、海原姉妹は『スーヴェニール』に向かうというので別れた。

 わたしと明信君は、改札でわたしの乗る電車を待つ。
 この駅には北口と南口があるが、どちらの出入り口もその先は商店街なので、人の往来が多い。
 その流れを見るように、わたしたちは並んで壁際に立っていた。

 明信君がこちらに顔を向けずに言う。
「でも、委員長はホント、変わったよな」
「ん?」
「去年は『わたしには近づくな』って自己紹介してたもんなぁ」
「ああ……そうだったな」
 わたしは微笑むと、彼の頬についばむようなキスをした。

「え、あ、お?」
「今、わたしがわたしとして、生きていられるのは君のおかげだ」
 彼は上気しながら、わたしを見ている。
「わたしを救ってくれて、本当に感謝している。ありがとう」
 わたしは深く頭を下げた。

「あ、ああ。てか、やめろよ。だいたい大げさなんだよ、委員長は」
 頭を上げると、彼はきょろきょろと辺りを見回している。
 周りが気になるらしい。
「良いじゃないか。本当の事だ」
「いや、うん。そうだと思うけどさ、委員長のことだから」
 そのはにかんだ彼の表情は優しくて、柔らかくて。
 この人は、いつでも、わたしの事を解っていてくれる。
 これからもずっと。そう、信じられる。

 わたしは真顔で彼の目を見つめた。
 彼は顔を赤くしながらも、真面目な顔になる。
「な、なに? 委員長」
「今度、そのときが来たら明信君」
「う、うん?」
「涼夏、と呼んでくれ。絶対だぞ」
 彼は息を飲んだ。

 ちょうどその瞬間、わたしの乗る列車が到着するというアナウンスが聞こえた。
 わたしはもう一度、彼の耳元に
「絶対だぞ?」
 と、言い残して、改札に向かったのだった。

《end》


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