[オレンジ色の悲痛:2]

[オレンジ色の悲痛:1]へ
[オレンジ色の悲痛:3]へ
=涼夏の物語= topに戻る
topに戻る

 一週間後。
 俺は戻ってきたテストを見て、つぶやいた。
「なんということでしょう。あの寒くて危険だった成績が、匠の工夫で暖かく穏やかな日の光が射込む、素晴らしい成績へと生まれ変わったのです!」
 すぐさま、涼夏の机の前まで行き悪辣な借金取りの証文のように、テストをちらつかせながら言う。
「へっへっへっ、約束は守ってもらうぜぇ、委員長さんよぅ〜」
 ノートに向かっていた涼夏は、せわしなく動いていたシャープペンシルを止めた。
 髪をかき上げて、俺とテスト用紙を見上げる。
「……ふむ。流石だな。よし、約束だ。君の言うことはなんでも聞こうじゃないか」

 来た。ついに来た。
 長い長い、子供の道のりからの卒業の日が。
 以前、俺の家で勉強会をやろうとしたときにはエレベータが止まっちまったからな。助け出されたときには妹も帰ってたし。結局そのあと、涼夏にはそのまま帰ってもらったんだよなぁ……。

「じゃじゃあ、いいい今から委員長の家に行かせてくれ」
 たどたどしく言う俺を見て、涼夏は不思議そうにしている。
「……ん? 勉強会でずっと来てたじゃないか。それだけでいいのか? 私も女だ。覚悟は完了した。君にならこの私の身体をどのように陵じょ」
 恐るべき天然。
 普通の女子なら絶対言わない、思いつきもしない単語を、さらりと言いかけた涼夏の口をテスト用紙で塞ぐ。
 涼夏の耳元に口を近づけて、小声で言い聞かせる。
「あのさ、今日は特別な、その、なんてゆーか、“そういうの”も含めて、いや、そんな決して激しくはないけど、でも、その、ソフトに、な? そんな意味でだな」
 涼夏はしばらく考えて、やがて顔を赤くした。相変わらず、表情は変わらない。
「ああ……そう言うことか。しかし、君は言葉を選ぶのが慎重すぎる。もう少し、ハッキリ言いたいことを言ってもかまわないと思うぞ」
 できるか!
「だが……君がそういう気遣いの出来る男だから、わたしは好きになったんだがな」
 微笑む。本当に少し。
 その変化は、たぶん俺だけにしか解らないだろう。
 そして、その顔は俺だけにしか見せないのだろう。

 放課後。
 涼夏が俺の横に来た。
「では、帰るとしようか」
 びくっとなる俺。緊張していた。
 涼夏は耳元でささやく。
「実はこんなこともあろうかと、今日は君のために委員会の仕事を明日に回しておいたんだ」
「お、おう」
 ぎこちなく立ち上がる。と、その瞬間、机にカバンを引っかけてコケそうになる。
「おっと。大丈夫か?」
 軽く手を差し伸べようとする涼夏。
 それに苦笑いをしながら、手を横に振って答える俺。
 なんだなんだ、これは。逆じゃねぇのか。
 なんで、これから初めてHされるかもしれない女が堂々としていて、する側の男がこんなに汗かいて動揺してるんだ。まったく!

 俺たちは教室を後にして、いつもの通学路を駅のほうへ歩いていた。
 朝、俺と涼夏がいつも挨拶する交差点にさしかかった時。
 涼夏は前の歩道の路肩を見て言った。
「あれは……なんだ?」


[オレンジ色の悲痛:1]へ
[オレンジ色の悲痛:3]へ
=涼夏の物語= topに戻る
topに戻る

 
 
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送