SHINOBI-COOL!!
[序]


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 学校。
 先生も生徒もやる気のない授業が終わり、やっと待望の昼休み。
 俺は腹を満たすために、学食へ猛ダッシュを掛けようとした、その瞬間。

 クラスの伊達(だて)さんが目の前に立っていた。
 少し驚く俺に、にこやかに声を掛けてくる。
「ねぇ武田くん、一緒にお昼食べない?」

 伊達さんは、どういうワケか俺に興味を持ったらしく、同じクラスになったときから色々と話しかけてくる。
 彼女は中肉中背で、オシャレとは縁遠い、地味な感じの子だ。
 顔立ちも、悪くはないが目を惹くほどではない。髪も特に染めるでもなく、普通に軽く真ん中辺りで分けてあるだけ。
 本当にこれと言った特徴のない、目立たない子だった。
 とても彼女に失礼な言い方だが、例えそういう子でも、女子に好意を持たれるというのはいいものだ。

 彼女は俺の横に来て、少し、はにかみながら言う。
「えーと……今日ね、武田君にぃ、これ……作ってきたんだっ!」
 さっと、後ろ手から突き出された、それはまさしく!

 弁当!

 マジでか!
「ね、屋上で、一緒に、食べよ?」
 顔を真っ赤にして、微笑む。
「え、い、いいの?」
「うん。だって……武田君に食べて欲しいから作ったんだよ?」
 いかん、伊達さんが可愛く見えてきた。
 俺は恥ずかしくなって、ぶっきらぼうに、そうか、じゃあ、とか何とか言って、屋上へ向かう。
 クラスのみんなに、罵倒と嬌声を浴びながら。

 その階段の途中で、窓から差し込む陽光に、一瞬影がさした。
「……鳥かな?にしては、大きかったような……」
 窓の上のほうを、ちょっと見上げた。
「どうしたの?早く行きましょ」
「あ、ああ」
 俺はまあ、いいか、と思い振り返った。
 すると、伊達さんが手を引いて屋上に誘う。
「さ、は・や・く」
 手を引いたね?母さんにも、引かれたことないのに!
 俺の足はたぶん、階段についていなかっただろう。

 屋上。めずらしく誰もいなかった。
 ふだんはそれなりにカップルがいて、等間隔に座っているものだが……。

 後ろで、伊達さんが屋上の出入り口を閉める音がした。
「え、な、なんで閉めるの」
 俺は動揺して、伊達さんに問いかける。
 伊達さんは俺のほうを向き直り、妖しい笑みを浮かべていた。
「だぁってぇ……二人っきりでぇ……」
 俺に一歩ずつ近づきながら、そのリズムに合わせて、言う。
「た・べ・た・い・のっ!」
 最後の一歩で、彼女の人差し指が俺の唇に触れた。
 彼女の目は、なんだか輝いている。
 彼女の唇は、いやに赤く濡れていた。
 伊達さんって、こんなに色っぽかったっけ?
 俺はまた、ぶっきらぼうに言った。
「そ、そうか、じゃ、食べるか」

 二人並んで、広い屋上の真ん中に陣取った。
 素早く弁当を広げる伊達さん。
 唐揚げ、タコさんウィンナー、リンゴうさぎ……まるで絵に描いたような弁当。
「おお!旨そうだね」
「ふふ……絶対、おいしいよ。はい、あーん」
 彼女は箸で、タコさんウィンナーを取って、俺の口に向けた。

 な、なんだってー!!

 あり得ない超常現象と、その衝撃の事実に声にならない叫びを上げた!
 こんな人生最大の奇跡は、もう二度とあるまい。
 イッツ ア ミラクル!

 俺は、言われるがままに、口を開く。
「あーん……」
 今まさに俺がタコさんウィンナーを噛みしめようとしたその瞬間。
 何かが閃いて、 タコさんウィンナーがなくなった。
 俺は空気を噛み切って、さらに舌を噛みそうになって慌てた。
 タコさんウィンナーを思わず目で探す。
 すると斜め後ろのコンクリートの床に、短い刃物と共に突き刺さっていた。
 手裏剣……?

「若、危ないところでしたね」
 どこからか、低い女の声がする。
 同時に、すぐ目の前のコンクリートの床が、まるで柔らかいもののように盛り上がった。
 驚いてよく見ていると、どんどん、高くなる。
 やがてそれが途切れて、 中から、黒いショートブーツを履いた足下が覗いた。
 それは、この屋上の床によく似た布を被った何者かだった。
 それを見た伊達さんが吼えた。
「きっさまぁ! どこの手の者だぁッ!!」
 伊達さんはスカートをめくると、太ももに留めていた刃物を取り出し、その何者かに襲いかかった。
 俺は何が起きているのか、理解できなかった。

 伊達さんは布ごと、相手を攻撃する。躊躇無く、斬りつけた。
 だが、切り裂かれたのは。
 布だけだった。
「う?!」
 一瞬、戸惑って、振り返る彼女の首に、後ろから刃物が当てられた。
 さっきの何者かに、羽交い締めにされる。
 そいつは、こちらからはよく見えなかった。
 ただ、その冷たい凍り付くような目だけが、青く輝いていた。
「敵に名乗る名はない」
 ヤツはそう言って、伊達さんの首にあてがった刃物を動かそうとした。
「やめろ!」
 俺は、慌てて目の前の二人にタックルをかけようと、ダッシュした。
 体勢を崩せば、隙ができる。それだけが今、思いつく全てだった。
「バカめ!!」
 救おうとした伊達さんの口から、信じられない言葉が飛び出す。
 同時に彼女は、靴のかかとを鳴らした。すると、彼女の靴先から刃物が飛び出し、そのまま蹴り上げた。
 突っ込もうとしていた俺は止まれない。
 このままでは、俺の顎から脳天までが串刺しだ。

 ヤバイ!

 そう思った次の瞬間。
 一瞬、俺の目の前が暗くなり、何かに抱えられて宙に浮いていた。
 目に映ったのは伊達さんのフィギュアスケート選手のように高々と上げられた足と……
 その横縞パンティ。

 鈍い衝撃と共に、俺を抱えた何者かが、俺を守るように転がった。
 そのまま反動を使って、俺をその後ろに回し、立ち上がった。

見上げると、全身、真っ黒の……変わったゴスロリ少女だった。



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