SHINOBI-COOL!!
[急]


[序] へ モドル

[破]へ モドル


SHINOBI-COOL!!トップに戻る
topに戻る

「あンの、じいさんめ!」
 長い廊下をドカドカと大股で歩く俺。
「若様!?これはご機嫌……」
「若様!いつ、お帰りに?!」
「若が、若が帰られましたー!」
 周りで、執事やメイドたちが慌てふためく。
 中には泣き出す者もいる。
 そりゃそうだ、高校に入ってから一度も帰ってないもんな。

 俺は、もうここの人間ではなくなったつもりだった。
 普段はバイトで稼いだ金で、6畳一間のアパートに暮らしている。
 平和で、のんびりした普通の高校生活。
 だが、それがなんの前触れもなく壊された。

 あの時、毒マムシ……いや、伊達さんは、あの黒い少女の一撃を免れた。
 黒い少女は言った。若が止めろと言うのであれば、そう致します。
 では、この毒マムシはどのように処置致しましょうか。

 俺は、答えた。本家の医務室で治療しろ、と。
 本当は本家にだけは頼りたくなかった。
 だが、俺のクラスメイトが、酷い目に遭っているのに放っておけるわけがない。
 例え……俺を殺そうとしていたとしても。

 黒い少女は、御意、とだけ言って、指を鳴らした。
 次の瞬間、黒い少女と同じ、黒ずくめの少女達が現れ、 伊達さんを抱えると消えた。
 ほとんど一瞬だった。

 残ったのは最初の黒い少女だけだった。青い瞳ですぐに解った。
 彼女は俺に向き直ると、何ら感情の読み取れない表情で言う。
「若のご質問にお答えしていませんでしたね……」
 スッと、俺の前で、ひざを突き、見上げた。
「わたしは、苦無衆(くないしゅう)がひとり、碧眼の空(へきがんのくう) と、申します……今後とも宜しくお願い申し上げます」
 うやうやしく俺に頭を垂れた。
「それでは、わたしも失礼致します」
 その声が終わると同時に、彼女は消え失せた。
 思わず、きょろきょろと見回したが、意味はなかった。
 ただ、伊達さんの流した血の跡も折れた武器も、きれいに消えていたのが解っただけだ。
 あとには、いやに白いコンクリートの床と、 秋の薄ら寒い空が、ただ広がるばかりだった。

 教室に戻ってみると、伊達さんは早退したという。
 みんなに色々、揶揄されりした。
 だが、俺が深刻そうにしているのを見て、それ以上は誰も何も言わなくなった。

 俺は放課後、本家に向かった。
 こんなことに巻き込まれるのは決まって、本家のじいさん絡みだからだ。 
 じいさん――武田 信綱(たけだ のぶつな)。
 今の頭首だ。
 道々、俺は思いを巡らせていた。

 苦無衆……。
 昔、じいさんに聞いたことがある。簡単に言うと、本家の忍者部隊だ。
 その任務は、本家の人間の身辺警護、敵対組織の情報収集、そして……敵の抹殺。

 その存在は遡れば、戦国時代からあったという。
 しかし、じいさんの代で、すでにそれは暗殺まで行うような実行部隊ではなく、 ちょっとした探偵のような組織になっていた。
 俺の親父、武田 信秀(たけだ のぶひで)も武闘派ではなく、頭で勝負する男だったので、さらに苦無衆は弱体化した。

 だが……そんな親父が、犠牲になった。

 じいさんは自分を呪った。自らの認識の甘さを。
 そして鬼になった。復讐と言う名の。

 苦無衆を諜報部と実行部に分け、諜報部には敵の正体を調べ上げさせた。
 それと同時に忘れ去られようとしていた秘術を自らが、実行部に叩き込んだ。

 そして、敵――武田直系の企業と、些細な利害関係のある企業が、いにしえの苦無衆を真似て作った組織だった――それを殲滅した。

 でも、そんな事は、絵空事だと思っていた。いや、そう思い込もうとしていた。
 この現代社会で、そんなバカなことがあるはずがない、そんな組織の存在が許されるはずがない……。

 しかし、非合法の組織というものは世界的に見ると、いくらでも湧いている。
 “テロ組織”と言う言葉は今や、ニュースでも頻繁に耳にする。
 苦無衆はテロ組織でこそないが、やっていることは似たようなものだ。
 己の利を守り、敵の利を削ぐ事に終始し、そのためになら例え、相手を抹殺しても良しとする……。

 普通の人は誰も知らない、そんな非合法組織というものは、実は相当数、存在するんじゃないか?
 俺は、そんな血で血を洗うような、死闘を見る血生臭い世界に居たくはなかった。
 だから、家を出た。

 しかし。
 ここに来て、また別の敵が動き出したのだろう。
 武田の血に連なる者の命を狙う、敵。

 俺は、覚悟していた。もし、やられるならそれでも良い。
 あんな血生臭い世界に戻るくらいならいっそ……。

 大きな音を立て、木の扉を押し開けた。
「俺がいつ、助けてくれって頼んだよ?!」
 じいさんのいる、通称“翁の間”に飛び込むと同時に吼える。
 だが、じいさんは動じるようすもなく。
 キセルを一服して、一言。
「信人(のぶひと)。お前には使命があるのじゃ」
 超然と言い放つ。
「使命?! この家を守れとかそんなこと、俺の知ったことじゃねぇぇぇぇっ!」
 いきなり、老人とは思えない動きで俺に迫り、怒鳴る。
「この大うつけがッ! 貴様がなぜ、守られるか、解らんのかッ!! この家のためでも、死んでしまった信秀のためでもないッ!!」
 そう叫ぶと……急に肩を落として、うつむき、静かにつぶやく。
「……お前に……お前には、死んで欲しくないのじゃ……」
 じいさんが、急に小さく見えた。
「お前は、信秀と同じ目をしておる……優しい目じゃ……故に心配なのじゃ」
 目に涙を溜めて、俺を真っ直ぐ見て言う。
「お前の使命とは……生きる事じゃ。生きて、生きて、生き抜く事じゃ」
 俺の肩に手を乗せた。
 それは、震えていた。
「そして……お前の目で、見て、考え、何が正しいのか、間違っているのか……答えを出す事じゃ」
 はらはらと、じいさんの目から涙が零れた。
 俺は、感動した。こんなに俺のことを考えていてくれたのか。
 俺も、涙が出てきた。止まらない。
「じいさん……解ったよ! 俺、生きる! 生きるよ!」
 俺は思わず、じいさんと抱き合ってしまう。
 
 やがて、じいさんは涙を拭いながら、離れた。
「うむ、解ってくれたか」
 頷きながら、微笑む。
「ならば……空! 華(はな)!」
 じいさんが呼ぶと、いきなり後ろから二人の女の声がした。
「武田くん!いや、若サマ!これからよろしくねー!」
「若。ふつつか者ですが、よろしくお願い致します」
 振り返ると、空と伊達さんがいた。二人とも同じ黒ずくめのゴスロリだ。
 空は正座で三つ指を突いている。まるで、お嫁さんだ。
 いっぽうの伊達さんは、ひざを内側に入れ、すねを外側に出して座る、いわゆる女の子座り。
 胸の前で、手を小さく振っている。
 顔に異常はなかった。
「え、伊達さん、目、大丈夫なの?!」
 伊達さんは、ふふーん、と誇らしげに笑って立ち上がる。
「見ててー」
 伊達さんは両手を広げ、その目立たない地味な顔立ちを、一瞬、遮るように覆った。
 すると、彼女は目鼻立ちのハッキリした、美少女に変わった。髪も茶髪で、ポニーテイルになっている。
「わたしの本当の名前は苦無衆がひとり、顔無しの華。演技派女優なんだよー」

 ……まさか。

 じいさんが突如、にんまりした。
「では、二人は信人に付いてもらう。これから奥の離れで暮らすが良い」
 俺は、ワケが解らず、慌てる。
「え、どういうこと? アパートは?!」
 じいさんは、したり顔で平然と言い放つ。
「お前はここで暮らすのじゃ。アパートは解約した」
 一瞬、放心しかけてしまう。
「ええー?! じゃあ、俺は……」

 騙されたのか?!

「なんじゃ、この二人では不満か?」
「いや、そういうわけじゃないけど、って、そうじゃなくて、わぁ!」
 空と華は、ふいに俺の腕をとり、騙されたと悟った俺を引きずっていく。
 華は跳ねるように言う。
「若サマ、じゃあこれから新居に行きましょーねー」
 ほほを染めて、笑う。
「まずはぁ、お食事にします? それともお風呂ですかー? ……そ・れ・と・もぉ……」
 空が突然、割り込んで来る。
「わたしをご所望ですか?」
「あ、空ちゃんが、あたしのセリフ盗ったぁー!!」
 ……えーと、それって……
「えぇぇぇぇぇーーーっ?!!」
俺の複雑で雑多な感情の入り交じった叫びは、むなしく廊下に木霊した。

 END



[序] へ モドル

[破]へ モドル


SHINOBI-COOL!!トップに戻る
topに戻る


 
 
 
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送