SHINOBI-COOL!! 参

[其ノ二]


[其ノ一]へ [其ノ三]へ [其ノ四]へ

  SHINOBI-COOL!!トップに戻る



topに戻る

「若! どうされました!」
「若サマ?! 寝ぼけてる?」
 左右からそれぞれ、女の子の声が響く。
 右側の目鼻立ちがハッキリした女の子が、くだけた口調でふとんから出てきた。
「汗びっしょりじゃなぁい、さぁ脱いで脱いで!」
 息が整わない俺のTシャツを、脱がしに掛かった。
「え、わ、おい!」
 俺は慌てて、立ち上がった。
「若、ご免」
 今度は左に寝ていた青い瞳の女の子が、冷静に俺のパンツをずり下げた。
「えええー?!」
 必死にTシャツで、股間を隠す。
 惜しい、と彼女が言ったのは、聞こえなかったことにする。
 パンツをトカゲの尻尾のように捨ておいて、部屋を逃げ回る。
「空、華! やめてくれ!」
 そうだ、目が覚めた。
 ここは武田の本家。
 俺の実家だ。
 今はじいさんが用意した、俺と彼女たちの離れに住んでいる。
「てか、なに勝手に俺の部屋で寝てんだよ!」
 俺たちには、各人に十畳ほどの部屋が与えられ、そこで寝起きすることになっていたはずだ。
「そりゃあ、もっちろん」
「若をお守りするためです」
 なに、そのナイスコンビネーション。
「とにかく! 着替えるから出てってくれ!」
 空がその青い瞳に、わずかな感情……決意にも似たものを見せて、聞いた。
「御意……ですが、若。ひとつだけよろしいですか」
 澄んで落ち着いた声の中に、やや硬さがある。
 俺は、何を言うのか気になって、それを承諾した。
「ああ。なんだ?」
 彼女は目だけそのままで、少し、うつむいた。
 睨む、と言うより探るような瞳。
「若の望みは、なんですか?」
「え……?」
 意味が解らないのと同時に、何かいやな気持ちになった。
「わたしは、若の望みならば、どんなことでもします」
 華も、頷く。
「あなたがもし……死を望んだとしても」
 俺はぎくり、となった。
「ば、ばかなこと、言うなよ! なんでそんなこと……」
 華が口を挟む。
「若サマが、寝言で言ってたの。殺してくれ、って」
 血の気が引く思いがした。
「うう……それは……ちょっと、いやな夢を見ただけだ」
 少し、沈黙があった。
「解りました。では、失礼します」
「じゃあ、着替えたら呼んでくださいねー、若サマ」
 ふたりは、俺の部屋を後にした。
「だから、呼ばねぇよ!」
 外で華の屈託ない笑い声が聞こえた。
 ったく……。
 俺は、簡素なタンスの前に行きながら、汗で重いTシャツを脱ぐ。
「やっぱり……忘れられるもんじゃないよな……」

 今までも、時々見ていた、あの赤い夢。
 親父が、殺される、夢。

 じいさんが、ほんの少し出掛けていたあの日。
 苦無衆も、すっかり弱体化して、普通のメイドのように働いていた頃。
 訓練だけはやっていたが、実戦経験はなかったのだろう。
 だから、みんなやられた。

 だが、あの時。
 ひとりだけ、生き残った少女がいた。
 奴らと互角に戦い、助けてくれた、あの子。
 あれは、誰だったのか。

 俺は不意に、空か華のどちらかではないか、と思った。
 ……いや、あり得ない。
 今の苦無衆は、じいさんが信用できる者だけを集めて、親父の復讐を遂げるため、組織したものだ。
 その中に彼女たちは、まだいなかった。
 その時、配属されたのは、みんな俺から見て、年上の女性ばかりだった。たぶん、リンダ姫もその頃、来たのだろう。
 空と華は、その復讐戦が終わってから……俺がちょうどその事実を知って、家から飛び出た頃、やってきたと聞いた。

 でも、それじゃあ竹林での一件に矛盾する。
 俺は復讐戦に関して、後からじいさんに聞かされただけで、実際には見ていないはずだ。
 だが、俺はあの赤い目の少女が、親父を殺した白面の男たちを容赦なく斬り捨てるようすを、鮮明に記憶している。
 なぜだ?

 俺が単に馬鹿なだけで、復讐戦に参加したことを忘れている。
 彼女たちのどちらかは、親父が殺された後、屋敷を離れ、どこかで修行かなにかしていた。
 そして、あの復讐戦の時、いったん戻ってきていて、俺の命令で、俺を殺そうとする。
 だが、なんらかの要因で、失敗する。
 さらに、俺が出て行った後、今度は正式に配属された。
 そう考えると、つじつまが合う気がした。
 ……いやいや。まず、俺の記憶違いと言う線がかなり強引だし、それ以外も相当、無理がある。
 それに空も華も、この前、初めて会った風だった。
「うーん……あれは誰だったんだ……」
 空か華のどちらかかも知れないと思ったが、考えれば、考えるほど、違う気がしてきた。

 俺はタンスから、きれいに畳まれたTシャツとパンツを手に取った。
 適当に、突っ込んでおいたハズのものだ。
「……これもあいつらのどっちかだな。メイドには触るなって言ってあるし」
 溜息をひとつ吐いて、とりあえず、着替えた。
 俺は、着ていた服を持って、洗濯場に行こうと思った。
 だが、身体がベタベタして気持ち悪い。
「ついでに、ひと風呂浴びよう……」
 風呂道具も一緒に持って、部屋を出た。
 こういうときばかりは、本家も悪くない、と思う。
 まるで温泉旅館のような風呂に、二十四時間、いつでも入ることができる。
 但し、母屋まで行かないといけないが。

 離れからの渡り廊下を歩いていると、音もなく左右から、ふたりの女の影。
「お供します」
「あたしもー」
 振り返って見ると。
 ふたりともちゃっかり、浴衣を着込み、風呂道具を持っている。
 呆れて、もう、追い払う気力もない。
 がっくりうなだれて、母屋に向かって踵を返した。
「好きにしろ。でも、一緒に入る、とかは無しな」
 華が嘆く。
「ええー! そんなぁ」
 空もぼそり、とつぶやく。
「若くらいの年代は、性欲を持てあます、と聞いたんですが」
 ぶふぉっ!
 思わず、なにもないのにコケそうになる。
「誰に聞いたんだよ! てか、どういう意味なんだよ!」
 ツッコミを入れつつ、右に曲がる。
 母屋に入り、そのまま、風呂場へと続く廊下を行く。
 空は律儀に返答した。
「聞いたのは、お館様からです。意味は、わたしと性行為を」
 俺がツッコミを入れるより早く、華が実力行使に出た。
 風呂桶から、クナイを取り出し、襲いかかる。
 空は、それをわずかな動きで回避した。
 ちょっとよろける華。
 体勢を立て直し、振り返った。
「わたしだって、若サマと……! その! ソレ……を……」
 真っ赤になって口ごもる。
 俺もすでに真っ赤になっていた。
 ちょうど、そのとき風呂場の入り口に到着した。
「ああ、もう! ほれ、ふたりとも、そっちの女湯に行け!」
 俺は彼女たちを手で追いやると、“男湯”と書かれたほうの風呂場に飛び込んだ。


[其ノ一]へ [其ノ三]へ [其ノ四]へ

  SHINOBI-COOL!!トップに戻る



topに戻る

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送