[SHINOBI-COOL!! 四] 華加編

其ノ弐


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「あ、あのさ、伊達さん」
 次の日の休み時間。
 若サマが、あたしの席に来て声を掛けた。
「ん?なぁに、武田君」
 にこりとして、見上げる。
 彼の顔は赤い。これは、はにかんでいる感じだ。
 きっと昨日の作戦が成功したに違いない。
「ん、えっとさ、伊達さんって、お姉さん、居たんだね」
 ビンゴ。
 あたしは、少し驚いたように応える。
「え、なんで知ってるの? どっかで会った?」
「あ、ああ。俺のバイト先に来てたんだ」
「へぇー、偶然だね。なんか言ってた?」
「あ、いや、特には……。伊達さんによろしくって」
「ふぅーん」
 あたしが、若サマの事ばかり言ってたってトコが大事なのに、聞いてなかったな。
 ちょっとサービスし過ぎたかなぁ。
 彼は何かを言いかけて、ちょっと口ごもった。
 あたしは、それを促す。
「ん、なぁに。言いたいことでもあるの?」
 彼は照れ笑い。
「あ、いや、お姉さんって、キレイだよね」
 あたしは、なんだかムッとした。
 ホントは、あたしが褒められてるんだけど。
「まぁねぇ。そーゆー意味では自慢のお姉ちゃんだよ。ちょっと、色っぽ過ぎるけどねー」
 彼の顔がさらに赤くなる。昨日のあたしの胸を思い出したんだろう。
「あ、あはは。そ、そうだね、うん」
 いいんだけどさ。なーんか、やな感じ。
 でも、そんな気持ちは表には出さない。冷静ににこやかに、彼に話しかける。
「なぁに? お姉ちゃんに会いたいの?」
 彼は、ハッとしてわたしを一瞬、見つめた。そしてすぐ、目を泳がせる。
「あ、いや、うん。えーと、会いたいって言うか、お話したいって言うか、でも、そのやっぱりそんな急には無理かなぁなんて思ってみたりしてでも会えるならまた会いたいなとも思わないでもなくて……」
 これはチャンスだ。
「じゃあ武田君がバイト、いつ入ってるとか教えて。お姉ちゃんに頼んでみるよ」
「え、いいの? ありがとう!」
 彼は喜びの表情で、あたしの手を取った。
 握手してぶんぶん振る。
「手、あったかいね」
 あたしがニッコリ笑ってそう言うと、彼はパッと放した。
 顔がまた、赤くなる。
「あ、ごめん。つい……。え、えと、後でシフト、教えるから! お姉さんの件、よろしくな」
 そう言い残して、そそくさと教室を出て行った。
 今どき、女の子の手、握ったくらいであんな反応するなんて。
 純情てか、すっごい奥手なんだな。
 そりゃあ、胸チラなんて刺激強すぎるよね。

「ねぇねぇ、伊達さん! 武田となんかあったの?」
 彼と入れ替わるように、クラスの女子たちが話しかけてきた。
「あいつ、愛想はいいんだけど、いっつもバイトでさ、誘っても一度も一緒に遊んだことないんだよねー」
「そうそう。けっこうイイ感じなのにさ、ちょっと暗いっつーの? まあ、そこもイイんだけンども」
 あたしはニコニコして、適当に話を受け流した。
「へー、そうなんだぁ……」

 その日の夕方。
 あたしは、メモ帳を見ながら、帰路に就いていた。
 今のあたしの家は、武田の本家。
 苦無衆用に、特別に作られた離れで暮らしている。
 若サマの監視は昨日と同じく、別の仲間に引き継いだ。

 メモには若サマから聞き出した、バイトの予定を書込んである。
 武田に敵対する企業は確かに動き出しては、いる。
 だが今日も彼に危険は及ばなかった。
 まあ、あたしが監視している時間帯は、大丈夫のはずだとは言える。
 もちろん、ほとんど学校にいるという事もあるし、あたしにも自信はある。でもそれだけじゃない。
 彼らにとって人目に付く場所で行動を起こすのは、あまりにも危険が大きいからだ。
 やるとしたら、彼が深夜シフトの時。バイトへ向かう道すがらを狙うだろう。
 それを用心して、あたしは姉キャラをダシに、この情報を手に入れたのだ。
「えーと、深夜に入る日は……あ、この日、新月だ。一番ヤバいな」
 今どき、夜も明るい都会で新月もなにもない。でも、これはもはや心理的なものだ。
 ほんの少しでもリスクを減らしたいという、犯罪者の。

 本家に着いた。
 その威容をちらりと見上げる。まさにお館サマそのものだ。
 玄関の門を通り過ぎ、高い石垣をぐるっと回って、裏の勝手口に向かう。
 石垣の上には、有刺鉄線とネズミ返しが付いている。
 さらに中には監視カメラとドーベルマンが配備。もちろん、あたしたちや式も。
 これは、ホントだったら今もお館サマだったはずの、若サマのお父さん、信秀(のぶひで)サマがやられてから強化されたって聞いた。

 裏の勝手口に着いた。
 勝手口とは言え、カードキーと指紋、網膜スキャンが全部一致しないと入れない。
 この異常とも言える厳重さはそのまま、お館サマが持つ、若サマの死に対する恐怖だとも思える。
 孫バカ、なんて言っちゃうとあたしがヤバいから、言わないけどね。

 離れの自室に向かった。
 いわゆる1LDKだ。家具や設備は、母屋にあるお風呂以外、全て揃っていた。
 お風呂は広い温泉だからすっごく気持いいんだけど、冬だけは、あそこまで行くのが寒いんだよね。

 あたしは部屋に入り鍵を閉めると、すかさず、お気に入りの広いベッドにダイブ。
「ふぁぁぁー! ごくらくー」
 あられもない姿でベッドの感触を満喫する。

 一通り堪能して、仰向きになった。
 天井に灯っている、小さい明りをぼんやりと見つめる。

 信秀サマが死んだ日。
 空ちゃんは、あの時、信秀サマを助けられなかった事を、今もずっと悔いている。
 だから、若サマだけは自分の手で守る。そう思ってお山に戻り、修行してたらしい。
 でも、いつからか、それが恋心に変わっていた。
 なぜなのか、解らないんだそうだ。
 あたしはよく、恋ってそういうものよ、なんて言ってたな。
 ホントはこれは、お母さんが舞台で言ってたセリフ。

“気が付いたら、誰かを好きになっていた……それが恋。恋ってそういうものよ。理由なんてない”

 幼児の頃、お館サマに引き取られて来たあたしに、そんな経験なんてないのに。
 子供っぽい嫉妬からくる、知ったかぶり。
 ホント、空ちゃんは小さい頃から大人っぽかったしなぁ。
 なんとか追い越せないか、いつも考えてた。
 結局、無理だって解ったんだけどね。
 好きな人を守る力は、それがないあたしには超えられない。

 そう言えば、あたしが空ちゃんと仲良く特訓してたら、朱音(あかね)が物凄い顔で睨んでた事があったな。
 あれは、確かに殺気があった。あの時は、空ちゃんがたしなめてくれたけど、本気で怖かった。
 《傀儡(くぐつ)の朱音》がまだ、その術を完成させる前で良かったと思う。

 でもホント、朱音は空ちゃんに、いつもベッタリだったな……。
 姉妹とは言え、まるで恋人みたいだった。
 空ちゃんは、あんまりそういうの、好きじゃないみたいだけど。

 そんな事を色々と思い出している内に、そのまま眠ってしまった。


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