[SHINOBI-COOL!! 四] 華加編

其ノ四


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 若サマの部屋に残した書き置き。
 それに、あたしはこう書いた。

『武田君へ
 今日は無理を言って付き合ってもらってごめんなさい。
 怖い人たちを追い払ってくれてありがとう。かっこよかったよ。
 あのあと武田君は急に熱が出たみたいで、悪いと思ったんだけど、妹から武田君の住所を聞いて、タクシーで運びました。
 かなりうなされてたみたいだったけど、バイト先にはシッカリ電話していたから、大丈夫かと思って帰ります。
 また、いつか会えるといいね。
 秀加』

 次の日。若サマは案の定、あたしに姉のことを聞いた。
 姉さんは突然、自分探しの旅に出たから長期間帰らないと告げた。
 彼はすっかり、しょげかえった。
 しばらく、バイトもミスが続いたようすだった。

 ある日の放課後。
 彼が誰もいなくなった教室で、ぽつんと窓際に佇んでいた。
 あたしは声を掛けてみる。
「武田君、帰らないの?」
 彼はゆっくり、あたしのほうを向くと突然、あたしを抱きすくめた。
「な、なに! どうしたの!」
 あたしは慌てて思わず、スカートの下のクナイを握り締めた。
 いやいや、これは襲われたワケじゃない。
 待てよ、襲われてるのかな。でも、戦闘するワケじゃない。
 あれ? ある意味、戦闘?
 あたしは混乱した。

「秀加さん……どうして……」
 彼の涙混じりの嗚咽。
 あたしはそれを聞いて、我に返る。
 同時に頭に来た。
 彼を突き飛ばす。 彼は机を倒しながら尻餅をついた。
 それを助けもせず、怒鳴りつける。
「バカ! よくあたしにそんな事、言えるよね! あたしの気持ち、考えた事ある?!」
 あたしの、気持ち。
 そう、お芝居じゃない、気持ち。
 そして、あたし以外にはお芝居だと思わせておかないといけない、本当の気持ち。
 彼は身体を起こしたが、顔は上げなかった。
「ごめん……どうかしてた」
 あたしは、無言で見下ろしている。
 彼の伏せた目は、睫毛が長い。
 少し間をおいて、彼はぽつりと言った。
「俺、母さんがいないんだ」
 知ってる。あたしだって、いない。
「小さい頃に病気で、ね」
 あたしのお母さんは、誰かに殺された。
「それに付き合った女の子もいない。だから女の子のこと、よく解ってないんだと、思う」
「だったら、死ぬほど考えなさいよ! このマザコン!」
 あたしは、そう言い残して教室を走り去った。

 それでも、あたしは隠れて彼を監視した。仕事は仕事だから。
 彼はもはや、生きた屍状態で学校を出た。
 今日は、彼のバイトが休みの日だ。ちょうどよかったのかも知れない。
 彼はフラフラと自分のアパートに向かった。
 途中、何度か電柱にぶつかりそうになっていた。

 彼が帰り着くのを見届けて、あたしは武田本家に戻った。
 いつものようにベッドに、女の子として恥ずかしい格好で倒れ込んだ。
 スカートがめくれようが、どうせ誰もいない。

「ちょっと言い過ぎたかな……」
 あたしは支給品の携帯電話を取り出し、彼のメールアドレスを探した。
 たった三文字。
『ごめん』
 それが、どうしても打てなかった。
「こんな時、空ちゃんなら素直に打てるんだろうな……てか、そもそもこんな状況になる事ないか」
 彼女は、真っ直ぐで純粋で……強い。
 あたしは溜息をひとつ、ついた。

「お母さん……か」
 あたしのお母さんが死んだ原因。
 それは、お館サマだ。
 昔、お館サマが、あたしのお母さんと付き合ってたから。
 別れた後も、彼はお母さんをずっと影から支援していた。
 お母さんは、同じ俳優だったお父さんと結婚して、あたしを産んで、やがて離婚したけど、それでもその間、お館サマは親友として、お母さんを支え続けていた。
 でも、それが仇になった。
 武田の企業間の抗争に巻き込まれて、お母さんは惨殺された。
 そう、若サマのお父さん、信秀サマと同じように。
 あたしが、そんな事情を知ったのは最近のことだ。
 お館サマは、あたしが全てを知るであろうことを見越して、あたしに敵対企業の動向を探らせていたのだ。

 真相を知ったあの日、あたしは泣きながら、お館サマを襲った。
 でも、彼は敢えてそれを受け止めた。受け止めてくれた。
 身体中を傷だらけにして、それでも、全く抵抗することなく。
 やがて、虫の息になった彼は弱々しく、だがハッキリと言ってくれた。
『華……。すまんかったな。じゃが、お前は死ぬな。あいつの、おまえの母さんの分まで……生きてくれ』
 あたしは、全ての考えが見透かされている事が解った。
 涙が枯れるまで泣いた。泣きながら、今度は彼を助けた。
 あれ以来、わたしは本当に苦無衆の一員になったのだと思う。

 ふいに、携帯電話からメールの着信音が鳴った。
 若サマからだ。
 なんだか、ドキドキしながらメールを読んだ。

『ごめん。よく考える。ありがとう』

 それだけだった。
 でも、あたしは顔が緩んで、どうしようもなかった。

「おはよう、武田君! 今日は暑いね」
 あれから数ヶ月。
 彼とは、ようやく打ち解けてきたと思う。
 だから、今日は初めての作戦行動に移った。
 そう“一緒に登校”だ。

 彼はぶっきらぼうだけど、返事はしてくれる。
「ああ。伊達さん。はよ」
 なんとも思ってない感じ。なんだか、ちょっと小憎らしい。

 あたしは横に並んで歩く。
 街が遠くに見える、緩やかな坂道を下りながら。

 しばらく行くと、古い日本家屋が目に入った。
 その角であたしたちは曲がる。
 表で、掃除をしていた品の良いおばあさんが、挨拶をしてくる。
「あら、おはよう」
 若サマは、軽く会釈した。
「おはようございます」
 あたしは、元気に言った。
「おはようございまーす!」
 おばあさんはちょっと驚いたようなようすだ。
「まぁまぁ、今日は彼女と登校なのね。素敵だこと」
 彼は、はにかんで応える。
「いや、そんなんじゃないですよ、ただのクラスメイトです」
 あたしはにっこり笑って、その否定を否定した。
「いいえ、仰るとおり、彼女の伊達 華加です。よろしくお願いします」
 彼女は優しく微笑んだ。
「まあ、礼儀正しい娘さんね。はい、よろしく」
 彼は、さらに否定することもなく、ただ、あたしを急かした。
「ほら、早く」
 あたしたちはおばあさんの笑顔に見送られて、学校に向かった。

 彼に聞いてみる。
「あのおばあさんは?」
 彼は振り返らずに応える。
「ん。ああ、ちょうど俺の通学路の途中で、毎朝、掃除してるから、ちょっと顔なじみになったんだ。あんなふうに、いつも感じのいい人なんだよな。あ、でもそう言えば、名前も知らないなぁ」
 珍しく、スラスラと話した。
「ふーん。てか、ちゃんと返事してくれたね。嬉しいよ」
 彼はほんのり、赤くして。
「べ、別に。普通だろ」
 そう言って足を速めた。
「あ、もう、ちょっと待ってよ」
 笑いながら、彼を追う。

 そう、普通。
 その時、あたしは本当に普通の、恋する女の子だった。

END


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