[ひなたの夏休み] 4

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 終業式も早々に終わって、ついに夏休みがやってきた。
 そして。
 涼夏もやってきた。
 彼女は学校からそのまま、一緒に俺のマンション近くまで来ている。
 まばゆいばかりの日の光が強く照りつける道を、しばらく歩く。
 公園からセミの声がうるさい。
 まだ一応、午前だってのにやたらに暑い。
「なんか急に夏本番って感じだなぁ」
「そうだな。この前まではまだ結構涼しかったんだがな」
 そうは言うものの、彼女はいつものように涼しげで、全然暑そうには見えない。

 涼夏の荷物は学校のカバン以外には、紙袋とディバッグがひとつ。
 勉強道具や宿題はカバンの中だとしても、これからそれなりの期間泊まろうって女の子の荷物にしては少ない気がした。
 例えば、替えの下着とか、女の子特有の、あの、アレとか……。

 ちょっと気になったので聞いてみた。
「荷物、少ないな」
「ん。ディバッグには小物と着る物を三日分に替えのブラを三つ、それにミュールを一足しか入れていないからな」
 ブラとか、さらっと言うし。
 俺は体温がさらに上がった気がした。
「そ、それだけでだいじょぶなの?」
「なに、パンツや生理用品はここの近所で買えば良い。それなりにお金も持っている」
 パ、パンツとか、もう。
 俺は思わず、彼女の体を見る。
 瞬間的に下着姿を想像し、慌ててそっぽを向いた。
 時々、涼夏は男子高校生の想像力を刺激する言葉を、わざと選んでんじゃないかとさえ思う。
「ん? 明信君。どうした」
 涼夏が俺の顔を覗き込む。
「ふむ。その顔色は暑さのせいばかりではなさそうだ。なにかまたHな想像をしているのか。しかたないな」
 半ば呆れたように、しかし、少しいたずらっぽく微笑んだ。
 誰のせいなんだよ! てか、やっぱ言葉選んでるんじゃねーの?!

 俺たちは日陰になっているウチのマンションホールへ逃げ込むように入ると、一息ついた。
 郵便箱に何もないのを確かめると、エレベータの前まで行く。
 ボタンを押した。しばらく待つ。

「ん。ここは風が入って少し涼しいな」
 エレベーターの横には明るいガラス張りの吹き抜けがある。
 そこに植えてある木が風に揺れた。
 涼夏は風をより感じようと思ったのか、目を閉じた。
 長い睫毛。すっと通った白い鼻筋。キレイな形の唇。それらが見事に調和する顔。
 前髪がいくつか、額に張り付いていた。
 やっぱり、涼夏でも暑いのは暑いみたいだ。
「汗」
 俺はハンカチでその額を押さえた。
「ん。ありがとう」
 涼夏は目を瞑ったまま、それを受け入れた。
 拭き終わっても、彼女は目を閉じたままだった。

 しばし沈黙。
 俺はその眠り姫のような姿に見とれていた。
 やっぱ、キレイだな……。
「明信君」
「えっ」
「眠り姫は王子様のキスで覚醒するんだぞ?」
 俺は考えを読まれた気がして、一気に顔が赤くなった。
「バ、バカじゃねーの! てかおまえ、頭いいけどバカだろ!」
 彼女の口が、ほんの少し拗ねるように尖った。
「む。そんな言い方をするのか。解った。キスをしてもらわない限り、絶対ここから動かないぞ。わたしはバカだからな」
 うう。困った。けど、カワイイ。でも困った。うー……。
「しゃーねーなー……」
 涼夏は一度言い出したら聞かない。
 俺は諦めた。頭を横に振って、深呼吸。
 ゆっくり、彼女の前に立つ。
 心臓の高鳴りを抑えるように、息を止めて。
 ついばむように、一瞬だけ彼女の唇に俺の唇を重ねた……つもりだった。
 だけど涼夏は腕を回し、俺の頭を固定した。離れられない。
「んん」
 そこへちょうどエレベーターが着いた。
 ドアが開くと、どこかの階のおばさんが見事におばさんらしいリアクションで出て来た。
「あらっ! まぁ! 若いって、いいわネェー!」
 おほほほ、と妙に高い声で笑いながらホールを横切り、去っていった。
 サイアクだ。
 俺は顔から火が出る思いで、なんとか涼夏の手を振り払った。
「も、もういいだろ!」
 彼女はちょっと自分の唇に指を当て、微笑んだ。
「ん。ありがとう。良い目覚めだ」
 俺はその笑みにドキリとした。
 その照れを隠すようにエレベーターに向き直った。
 もう一度ボタンを押すと、さっきおばさんが出てきたドアが開く。
 前みたいに止まるんじゃねーぞ、と思いながらエレベーターに乗り込んだ。
 涼夏も続いた。
 機嫌は物凄く良さそうだった。

 エレベーターはちゃんと俺の家のある階で止まった。
 一緒に降りて、コンクリートの廊下をウチの前まで歩く。
 涼夏は眼下に広がる町並みのほうを、まぶしそうに見ながらつぶやいた。
「九階はさすがに高いな」
 俺は立ち止まって、ちょっと得意げに指さした。
「学校も見えるぜ。ほら、あれ。入道雲の下」
 涼夏は俺の指のさす方角を探した。
「どれどれ……ふむ、確かに見えるな」
 彼女は頷いた。
 ちょっと間をおいて、やや低いトーンで話し出す。
「当前の事だが、君はいつもここから通学しているんだな」
「え? そりゃあ、うん」
 涼夏は続ける。
「つまり、ここはわたしの知らない君の世界、という事だ」
 学校よりさらに遠くを見つめる眼で、疑問を投げかけてきた。
「今更言うのも気が引けるが……その領域にわたしは、足を踏み入れても良かったんだろうか」

 いつもの強引とも言える彼女らしくない言葉だ、と思った。
 だが、よく考えるとそんな他人との距離に敏感なのが、本当は彼女らしいんだ。
 ここんとこ、俺は涼夏との距離が急に縮まってて、そのへんを忘れてた。
 そう、いつも他人と触れ合うのを怖がっていたのが本来の彼女なんだから。

 俺は彼女の髪を優しく撫でた。
「いいよ。おまえは俺の世界をもっと知りたいんだろ。俺もおまえの領域ってヤツをもっと知りたい。そゆことじゃん」
 彼女は頭を俺のほうに向ける。
 ふわりと、肩の少し下まである長い髪が風になびいた。
 その瞳が眼鏡の奥から真っ直ぐに俺を見つめる。
「そうだな」
 夏の日射しに負けないほど、その微笑みは輝いていた。

「ただいまぁ。じゃ、どうぞ」
 俺はウチの玄関先でなんかどぎまぎしながら、彼女を家に上げた。
「お邪魔します」
 彼女はぴしっと靴を揃えて、俺に続いた。

 家の中は冷房が効いてて、涼しい。
 狭い廊下を進みながら、簡単に案内する。
「こっちが俺の部屋で、右がふゆなの部屋、その隣に洗面所とか風呂があるんだ」
 突然、ふゆなの部屋のドアが開いた。
「あっ涼夏さん! もう来てたの、びっくりした! こんにちはっ!」
 俺たちより一日早く夏休みに突入していたふゆなは、挨拶もそこそこに涼夏に抱きつく。
 着ている物はオレンジ色のキャミソールと短パンだけだった。
 いくら家の中だからって、中三なんだから下着とかつけろよ。ま、隠すようなトコはほとんどないんだけどさ。

 涼夏は穏やかに話しかける。
「やあ、ふゆなちゃん。久しぶり」
「涼夏さーん! 今日からウチに泊まるんだよね! ね! うっれしいなぁ!」
 ポニーテイルをふりふり、まるで子犬のように涼夏の周りを駆けずり回る。
 ほんっとに子供だな。世間の中三ってのは、もっとシッカリしてる気がするぞ。
 だいたい、そろそろ受験の準備とかなぁ……。
 ふゆなが眼をきらきらさせて、涼夏を見上げる。
「涼夏さんには、せっかくだから受験勉強を教えて欲しいんだー」
 俺は思わず、コケそうになった。
 な、なんだ。ふゆなもちゃんと考えてるんじゃねーか。
「うむ。それは良い心掛けだ。一緒に勉強しよう。もちろん、明信君もな」
 涼夏は眼鏡をきらりと光らせ、俺を見つめた。
 うえー。ちょっとは遊ぼうよー。

 俺たちは廊下を進む。
 キッチンとダイニングが繋がったリビングに出た。
 俺はキッチンの母さんに話しかけた。
「母さん。花鳥(はなとり)さん、来たよ」
 キッチンから出てきた母さんは、今日も髪をアップにしてまとめている。
 そう言えば、物心着いたときからあんまり母さんが髪を下ろしてるのを見たことないな。

 母さんは手をエプロンで拭きながら、にこにこと涼夏に笑いかける。
「あら、良かった。ちょうどお昼ができたところよ」
 母さんが軽くお辞儀をする。
「こんにちは。いつも息子がお世話になっています」
 涼夏はそれに応えて、深々と頭を下げた。
「こんにちは。明信君とお付き合いさせて頂いてます、花鳥 涼夏です。よろしくお願いいたします」
 涼夏は紙袋を、ていねいに差し出した。
「これはお近づきにと、お持ちしました京都の和菓子です。皆さんでお召し上がり下さい」
 あ、紙袋はお土産だったのか。さすがだ。いつも大人っぽいけど、こういうときはホント、大人っぽ過ぎるくらいだ。
「あら、ありがとう。頂きますね」
 母さんはいつもの調子を崩さず受け取ると、紙袋から出して冷蔵庫にしまった。
「じゃあ、せっかくだからお昼の後で頂きましょうか」
 ふゆなは単純に喜んだ。
「わーい! じゃ、早くお昼食べよー! お椀出すねー」
 こういうときだけは素早く動くんだから。ったく。
 俺たちも一緒に用意をした。

「いただきます」
 俺たち四人は、ランチタイムに入った。
 今日はシャケと大根おろしの冷やしうどんだ。
「ん! 旨いよ」
 夏らしくてさっぱりしてる。
涼夏も一口、食べる。
「おいしい……。鮭フレークに大根おろしとしそ、ポン酢が物凄く合ってます」
 母さんが手を合わせるようにして喜んだ。
「よかった。花鳥さんの口に合って」
 母さんが涼夏に冷たいお茶を勧めながら話しかける。
「花鳥さん、本当に聞いてた以上に美人ねぇ。しっかりしてて、でも可愛らしいさもあって」
 ふゆなが答えた。
「でしょでしょ? 涼夏さんは勉強もできるし、なんでもできるんだから! すーごいんだよ」
 てか、なんでおまえが偉そうなんだ。
 涼夏を見ると、ほんのりと頬を染めている。珍しく照れているようだ。
「ありがとうございます……」
 涼夏はお茶をちょっと飲んだ。
 母さんは、うどんを少しずつ口にしながら話しかける。
「ね、あなたの事、これから涼夏ちゃんって呼んでもいいかな」
 涼夏が母さんのほうを見て、やや目を見開いた。
「はい。もちろんです。嬉しいです」
 母は笑って、付け加えた。
「じゃあ、涼夏ちゃんもわたしを、お母さんって呼んでね」
 俺は、飲みかけのお茶を吹きそうになった。
 涼夏が前々から言ってた“ご挨拶”ってのが普通の挨拶でホッとしてたのに!
「いや、母さん。それはどうなの。おばさんとかでいいじゃん」
 母さんは一瞬、俺を物凄い眼で睨んだ。
 はい。ごめんなさい。

 次の瞬間にはまた、いつもどおり優しい笑顔で涼夏を見た。
「ね? いいでしょ」
 涼夏は母さんを、まじまじと見つめる。驚いているようだ。
 ここまでびっくりする涼夏は初めて見た。
 涼夏はお茶を置いて、お辞儀をする。
「はい。解りました。それでは、お母様、と呼ばせて頂きます」
 母さんは、強く頷いた。
「うん! これからよろしくね。涼夏ちゃん」
「はい。こちらこそ、ふつつかものですがよろしくお願いします。お母様」
 微笑み合う二人。
 えええー! やっぱりこんな結婚の挨拶みたいになってるじゃねーか! ったくもう。
 俺は頭を横に振りながら、溜息をついた。

 しかし、母さんはすごい。
 いくら涼夏が最近は少し心を開いているからといっても、やっぱりまだ他人に対しては、いつもどこか遠くに自分を置いてる。
 たぶん一番近い俺に対しても、まだ溝っていうか、距離はあるんだと思う。
 でも、母さんは初対面で涼夏の心を捉えた。いつの間にか涼夏の緊張が解けてる。
 母さんの持っている柔らかい雰囲気のせいだろうか。それとも、会話のタイミング?
 いずれにせよ、母さんにしかできない技だ。

 お昼が終わって、涼夏と母さんが片付けようとした。
「あ、俺もやるよ」
 涼夏は微笑んで断った。
「いや、今日はわたしにやらせてくれ。まだ、お母様とも話がしたいしな」
 後ろから、ふゆなが制服のすそを引っ張った。
「そうそう。お兄ちゃんは部屋、片付けといたほうがいいんじゃないの?」
 ふゆなは自分の鼻をつまむ真似をする。
「特にゴミ箱とかねー。すっごいコトになってるんじゃない? ティッシュがモリモリって」
 俺は赤くなって否定した。
「うっせぇよ! そんなの、昨日の内に捨てました!」
 ふいに涼夏が会話に入ってくる。
「なんだ? そんなにティッシュを使うなんて。この時期、花粉症というわけでもないだろうし、鼻風邪でも引いているのか」
 小首をかしげて、俺を純粋なまなざしで見つめる。
 苦笑する母さんと、ふゆな。
 涼夏さーん。俺はなんて答えればいいんですかー。
 母さんが涼夏に話しかける。
「まぁまぁ、それはアキ君がいない間に教えてあげるわ。ほらアキ君、シャワーでも浴びて着替えてらっしゃい」
「うう。はぁい」
 俺は助かったのかなんなのか微妙な気持ちで、その場を後にした。

 シャワーから出て、しばらく自室を片付けた。
 もちろん、昨日の内に念入りに掃除はしていたんだけど、それでも念には念を入れて、と。
 そうこうしていると、ドアがノックされた。
「わたしだ。入っても良いかな」
 ドキリとする。
 俺は、ちょっと焦りながら返答した。
「は、はい。どうぞー」

 涼夏が俺の安物のベッドに座って、もの珍しそうに見回した。
「これが君の部屋か……」
 荷物はふゆなの部屋に置いてきたのだろう。
 涼夏も着替えていた。
 黒い七分丈のデニムパンツに、白い無地のTシャツ。
 髪は、珍しくアップにして後ろで留めている。うなじがキレイでドキドキする。
 今日は涼夏の今まで見たことのないが面ばかり見られて、なんか嬉しいなぁ。

 彼女はDVD棚を見た。
「すごい量のDVDだな……。ん、これは……。ちょっといいかな」
 涼夏は立ち上がって、興味があるDVDに手を伸ばした。
「あっ、えとそれはちょっと……」
 そう。それはエロエロDVDが同梱されているもののひとつだ。
 俺は誰にもエロエロなDVDの存在がバレないように細心の注意を払っている。
 エロいパッケージは全て捨て、特定の映画のケースに一緒に入れることによって管理しているのだ。
 涼夏は、また別のケースを取ろうとする。
「ふむ。ならば、これは……」
「あっ、それもちょっと、ね」
「ん? どういうことだ。うーん、それならこれはどうだ」
「あーっ! それは一番ヤバ……!」
 俺は思わず、自分自身の口を塞いだ。
「んん? 一番ヤバイ? どういう事だ。ただの映画じゃないのか」
 涼夏の瞳が、眼鏡の奥から冷たく光る。
「あ、え、えーと」
 彼女は、何か思いついたように頷いた。
「ふむ。なるほど。そういうことか」
 彼女はケースを持って、またベッドに座った。
「以前、ふゆなちゃんが言っていた。君の部屋には、健全な高校生男子ならば必ず興味があり、持っているであろう性的な欲求を解消すべき本などの類が一切ないと」
 彼女は、DVDの箱を目の高さまで持ち上げた。
「だが、こういうふうに隠していたというわけだな」
 パカッとケースを開けて、二重になっているDVD本体を取り出した。
「ひとつはこのパッケージの映画。そしてもうひとつは……『裏DVD究極映像160分! 眼鏡っ子の過激でショッキングなHシーン全て見せます』か」
 俺は、そのタイトルを読む涼夏にもちょっと興奮しながらも、がっくりとひざを突く。
「すんません、俺が犯人ですッ!」
 溜息が聞こえる。
「ふむ。しかたない。罪は罪だ。隠し立てした罰として、HなDVDは全て没収だ」
「えええ――ッ! お代官様、お慈悲を、お慈悲を――!」
「ならん」
 一蹴された。

 結局、俺の持っていた裏コレクションは全て段ボール箱に封印され、涼夏の家に送られることになった。
 ムチャクチャだ。
 涼夏は段ボール箱に封をすると、またベッドに座る。
「しかし、君は眼鏡の女の子が好きだったのか」
 俺はしょぼくれながら、頷く。
「はい。そうです」
 なぜか敬語。
 涼夏も頷いて、微笑む。
「それは良かった」
 その笑顔が小憎らしい。襲っちゃうぞ。

「ふぅ。少し疲れたな」
 彼女は手をベッドに沿って伸ばし、ごろりと横になった。
「ここでいつも君は寝ているのか」
 俺の枕を手に取ると、目を瞑って頬を埋める。
「ん……君の匂いがする」
 体を横にして、片足を曲げる。腰からお尻のラインが強調される。
 しどけない体勢だ。
 目を瞑ったまま、静かに囁いた。
「あんなものがなくても、わたしがいるだろう?」
 彼女は顔を隠すように枕を持って、体を仰向けにした。
 こ、これって誘ってる?! てか、それ以外の何ものでもないよな?!
 Tシャツの胸の部分が強調された。うっすらと透ける青いブラがまぶしい。
 Tシャツとデニムパンツの間からチラッと、おへそが見えている。
 頭に血が上って、くらくらしてきた。
 俺は、とりあえず聞いてみる。
「い、いいのかな……てか、最後まではその、おまえも怖いって言ってるからしないけど、でもその体勢って、もうちょっと先まではいいってことなんだよね? ね?」

 無言。
 返事がない。
 急に枕を掴んでいた手が、ベッドの上に落ちる。
「あ、あれ?」
 俺は、そっと彼女の顔から枕を取ると。
「すぅ……すぅ……」
 寝てるじゃん!
 しかたないなぁ、ホントに眠り姫なんだから……。
 ん、待てよ。
 また前みたいに実は起きてたりするんじゃないか?
 彼女の顔をよく見てみる。
 しかし、よく解らない。

 よし。ちょっとイタズラしてやれ。
 俺はTシャツを少し、ひっぱり上げる。
 滑らかなお腹がゆっくり上下しているのが見える。
 俺は興奮から来る鼻息を殺して、そのお腹に中指を乗せた。
 涼夏の反応はない。
「わ、柔らけー……スベスベだぁ……」
 思わず、はぁはぁと息が荒くなる。
 俺は他の指も同時に乗せて、その上を滑らせる。
「んん……」
 涼夏が反応した。
 俺は驚いて、素早く指を引っ込めた。
 また、彼女の顔をよく見てみる。
 起きるようすはない。
「よ、よし、もう一度……」
 今度は彼女のTシャツをゆっくりとズリ上げる。
 見事な腰のくびれと、もち肌のお腹。そして縦長のおへそが露わになった。
「うあ……キレイだ……」
 俺はだんだん何を考えているのか解らなくなってきた。
 息を飲むと、頭をそのおへそのあたりに沈める。
 俺の唇が、彼女のおへその横に触れた。
 涼夏のお腹が、びくっと跳ねた。
「んぁ……」

「はいはーい! そこまでっ!」
 突然、部屋のドアが開いて、ふゆなの声が飛び込んでくる。
 俺は飛び上がって、涼夏から離れた。
「な、なんだよ! ノックしろよっ!」
「うっさい! このドヘンタイ! 自分ちで、しかも家族もいるってのに真っ昼間っからエロエロなんて最ッ低!」
「てか、覗いてたおまえも変態じゃねーかっ!」
「なによっ! ほっといたら犯罪者確定の兄を監視すんのは妹としてとーぜんの義務じゃん!」
「んだとこのやろぅ!」
 俺たちが言い合っていると、涼夏が体を起こした。
「ん……」
 頭をふーらふらと振っている。完全には起きていないようだ。
「あー……すまない……。眠って、しまったようだ……な。なぜか最近……明信君といると眠くなるんだ……」
 俺は涼夏のそばに戻った。
 彼女は目を半分閉じながら眼鏡を取って、俺に手渡した。
「そういうわけで……済まないが……もう少し、眠らせて、くれ、な……いか……」
 語尾をハッキリしないまま、涼夏はまたベッドに沈んだ。

 俺とふゆなは、顔を見合わせた。
「俺、委員長のそばにいたいんだけど」
「あたしだって。ま、お兄ちゃんの監視もいるしね」

 俺たちはそんなふうに夏休みを始めたのだった。

《end》


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