[夏休みの] 5.パーティクル・パーティー(前編)

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 あたしは、リョウちゃんのお母さんと食後の後片づけをしているアキ君、リョウちゃんを残して、みんなと共に二階へ上がった。
 ふゆなちゃんの案内で、リョウちゃんの組んだ部屋割り通り、全員を部屋に入れた。
 リョウちゃんのことだから、いきなりアキ君と同室にしてるかも、とも思ったがさすがにそこまでのことはしていなかった。
 もしそうなら、あたしが組んでいたものに強制的に変更するつもりだったんだけど。
 もちろん、あたしとアキ君を同室にするっていう強攻策だ。

 部屋割りは奥から順にアキ君とイヌキンの部屋、あたしとリョウちゃん、ふゆなちゃんの部屋。
 それから、残りの四人の部屋になっている。
 リョウちゃんは、さすがにアベちゃんと一緒の部屋は避けたみたいね。
 ま、あたしでもこういう配置にしたかな。
 特にアベちゃんはサトちゃんに懐かれてるし、仲のいい双子を別々にもしたくないし。

 ふゆなちゃんに案内されて、わたしたちの入る部屋に入った。
「ぶちょー。ここはふだん、涼夏お姉ちゃんの部屋なんですよー」
 あたしは中を見て、軽く溜息を吐いた。
「……二十畳はあるんじゃないの、これ」
 広い。しかもなにもかも全てキッチリ整えてあって無駄がない。てか、無さ過ぎよ。
 まるで、新しく開店したお店の内装写真みたい。
 マンガはもちろん雑誌もテレビもないなんて、どんな生活してんだか。

 そう言えば、さっきのダイニングキッチンもすごかった。
 まるでテレビの料理番組に出てくる一流店の厨房みたいな設備。
 冷蔵庫も、あれなら一ヶ月は何も買わなくても生活できるんじゃない?
 あ、そうだ。あのめちゃくちゃ高い最新式のスチームオーブンもあったな。
 包丁とかも相当良い物あるんだろうなぁ。

「はぁ。あたしんちとは全然違うなー……」
 あたしはもう一度、溜息を吐いた。
 でも、すぐに気持ちを切り替えて部長モードになる。
 それが出来るのがあたしの強みだ。
「さて、あとは……」
 カバンを下ろし、しゃがみ込んだ。
 中から自分で組んだスケジュール表を取り出す。
 部屋に入る前にみんなに配ったものだ。
 次の予定を確かめる。

 唐突にあたしの背中に重みが掛かる。
「ぶちょー、次は夕食の買い出しと準備ですよー!」
 ふゆなちゃんが、あたしにダイブしてきたんだ。
 あたしは気持ちよく笑って答えた。
「ん、そーね。よく覚えてるね。エライよ」
 褒めると頬をほんのり染めて、えへへと笑う。もう、ほんと可愛いなー。
「じゃ、みんなと一緒に行こう」
 あたしは立ち上がると他の部屋にみんなを呼びに行った。


「わぁ。涼夏様の家、どこでも広いなぁ」
 あたしとサトちゃん、海原さんたちはあたしたちの泊まる部屋を見て驚いた。
 十畳以上はある和室。そこにまるでホントに旅館にあるみたいな和風のローテーブルがある。
 一瞬、ここがどこなのか分からなくなっちゃう。

 サトちゃんがあたしのそでをひっぱった。
 同学年とは思えないほど背が低いので、少し屈んで聞き耳を立てる。
「ん?」
 彼女は小さな声でつぶやいた。
「……ごろんってしても、いい……?」
 か、可愛いー!
 心の中で叫んでしまう。
 また、ふゆなちゃんとは違う保護欲を掻き立てられるような可愛らしさ。
「うん、いいよー。あたしもちょっとやってみたい」
 笑いかけた。

 それを聞いた海原姉妹が突然、ダッシュして押入れの前に行く。
「妹よ! せたっぷ開始!」
「らじゃ!」
 ガラリとふすまを開けて、ふとんを引っ張り出した。
 畳んだまま、広げないでどんどん放り出していく。
 掛け敷き、合わせて八枚のふとんが散乱した。
「よし! ダイビングミッションに移行!」
「らじゃ!」
 ぼふ、ぼふっ!
 二人はちょっとジャンプして、そのふわふわで真っ白なふとんに飛び込んだ。

 あたしは、サトちゃんの手を引いて走った。
「あたしたちも行こ!」
 サトちゃんはうなづいて、一緒に駆け出した。

 ぼふ、ぼふっ!
 あたしとサトちゃんは、ふとんに飛び込んだ。
「きゃー!」
「ははは!」
 海原姉妹が楽しそうに騒ぐ。
 ふとんは予想以上に柔らかくて、お日様の匂いがする。
 なんだか、いいな……こんなの。
 涼夏様がいないのがちょっと残念だけど。

 四人でふとんと戯れてゴロゴロしていると、外で部長の声がした。
「おーい。みんなー、買い出しに行くよ」
 あたしは起き上がり、返事をした。
「あ、はーい。今行きまーす」
 でも、起き上がったのはあたしだけだった。
 振り返ってふとんのほうを見ると、みんなは日だまりの猫の集会のように丸まって、喉を鳴らしている。
 えーと、どーしよ……。

 背後で部長が入ってくる音がした。
 わたしは部長のほうを見た。
 部長はみんなのようすを見て、半笑いになる。
「どうしたの、入るよー。……ってこれは一体……」
 そのすぐ脇から、猛ダッシュする人がいた。
「みゅーん!」
 ふゆなちゃんがスカートなのも気にせず、みんなのいるふとんに飛び込んだ。
 ぼふ!
「きんもちいー! あはは!」
 部長が苦笑して、軽く頭を振った。
「天真爛漫とはこのことだなぁ」

 そこへ、風光君と坂本君が現れた。涼夏様はまだ下なのかな。
 風光君が部長に尋ねる。
「えーと、買い出しに行くんですよね?」
「そーなんだけどね。みんな、ふとん中毒になってんの」
 彼がみんなを見て、やっぱり苦笑した。

 突然、坂本君が身を乗り出した。
「ふとん王に、オレはなる!」
 どこかで聞いたようなセリフを口走って突進してきた。
 まるで子供みたいに目を輝かせてる。
 あたしはパニックになった。
「あわわわ!」
 例えクラスメイトだって判ってても、やっぱり男が向かってくるのは怖い。
 身体はすくんで動かない。
 風光君ならまだマシだけど、坂本君はかなりやだ!

「さ、坂本さん?!」
 ふゆなちゃんが、坂本君のヘンなオーラに気付いて猫モードを解いた。
「え、ちょ、まだそんな、いやっ! いやぁっ!」

 不意に二つの影が左右から現れた。海原姉妹だ。
「我ら必殺合体技、行くぞ!」
「はい! お姉ちゃん!」
 坂本君に向かって、まず妹の真帆ちゃんがダッシュ。
「スライス・アンドォォォ!」
 真帆ちゃんが彼の足元に滑り込んで、転ばせる。
 坂本君のバランスが崩れ、前のめりになった。
 それを見て、姉の悠ちゃんが追い打ちを掛ける。
「ボンバァァァァッ!」
 坂本君の喉元へ、腕を伸ばしてぶち当てた。
 あれは確か、ラリアットとかいう技だっけ。

 彼の身体はスローモーションで宙に浮いていた。
 そして、仰向けに大きな音を立てて倒れ込んだ。
 そのまま白目を剥いて、ぴくりとも動かなくなった。

 悠ちゃんが冷たい目で見下ろした。
「愚かな男よ」
 同じようすで真帆ちゃんも言う。
「全くね」
 あたしはホッとすると同時に、やっぱり苦笑した。

 部長は溜息をついて、手を叩いた。
「はい。んじゃソレは放って置いて、買い出しに行くよ」
 全員がとっても気持ちのいい返事をして、ぞろぞろと部屋から出た。

 ふゆなちゃんだけがちょっと、坂本君のようすを見てつぶやいていた。
「ふん、バーカ」
 唇を尖らせて怒った感じだ。でも、少し頬が赤い。
 あれれ。もしかして、ふゆなちゃん……?
 てか、坂本君は本物のバカだよ? それでもいいのかなぁ。


「ああ、はぁっはぁ……」
 あたしは一生懸命、手を動かしました。
「こ、こんなおっきなの初めてで、ちょっとキツいよぉ……」
 力を入れすぎないように、でもちゃんと擦ります。
 ちゃぷちゃぷと水音が響きます。
「はぁっはぁ……あ、白いの出てきたぁ」
 どんどん白濁が溢れます。その中はすっかり汁でいっぱいになってしまいました。
「すごぉい、こんなに出るのぉ?」

 ふいに後ろからお姉ちゃんが囁きました。
「妹よ。お米はよく研がないと酷い目に遭うぞ?」
 あたしはごはんの係になったので、がんばってお米を洗っていたのです。
「わかってるよー。でも、はぁっ、こんな十合も入るような内釜で、はぁっ、洗ったことないもん」

 ふと見ると、特にやる事もないようすの坂本君がそばにいました。
 わたしたちが買い出しを終えて帰ってきたときにはまだ回復していませんでしたが、今はもう大丈夫なようです。
 それどころか、なにやら鼻の穴が開いて息が荒いんです。顔も赤くて、なんだか興奮しているようです。
 顔が良いだけに、よけいにヘンでヤバい感じがしました。

 お姉ちゃんが一歩前に出て、声を掛けました。
「なんだ、坂本。もう一度、わたしたち姉妹の合体技が欲しいのか?」
 そう言えば、お姉ちゃんの口調は花鳥さんとよく似ています。
 クラスも違うし、そんなに仲が良いわけでもないのに少し不思議。

 坂本君は顔色を悪くして、否定しました。
「いやいや、それは勘弁してくれよぉ。それで真帆ちぃ、あとオレがやろうか。お詫びと……お礼も含めて」
 お姉ちゃんがあたしと同じ疑問を口にしました。
「ん? お詫びってのは買い出し前のふとん事件の事だな。だけど、お礼ってなんだ?」
 彼は顔をまた赤くして返答します。顔色の中の人は忙しいみたいです。
「あ、いやなんでもないない。さ、替わるぜ」
 あたし達二人は腑に落ちませんでしたが、せっかくなので替わってもらいました。

「それで、どうやればいいんだ。オレ、やったことないんだけど」
 手を洗った坂本君が尋ねてきます。
 お姉ちゃんが呆れました。
 あたしは、しかたないので教えます。
「とりあえず、その白いの捨てて」
 彼は軽く頷くと、とぎ汁を流しました。
「それからお水を足して、力を入れないで優しく擦るようにして洗ってね」
 またなんだか赤くなっているようですが、ちゃんと手は動いています。
「そうそう。そしたらまたすぐ白いのいっぱいになるから、それが出なくなるまで繰り返して」
「で、出なくなるまで……はぁはぁ。りょ、りょーかい」
 彼はようすはヘンだけど、言われたとおりにお米を洗います。ちゃんと洗えてるみたいです。

 何気なくおかず班のほうを見ると、ふゆなちゃんがハンバーグの挽肉を捏ねている手を止めて、あたしを睨んでいます。
 どーしたのかな。あたしなんかしたのかな?

 そばに行って声を掛けました。
「ふゆなちゃん。どしたの。あたし、なにかした?」
「いいえ! 別にっ!」
 はう! なんか怒ってるよ。
 あたしの顔を見ずに答えて、挽肉をもの凄い勢いで捏ね出します。

 その鬼気迫る感じに、あたしはすごすごとそばを離れました。
 目の前にお姉ちゃんが来てポンとあたしの頭に手を乗せました。
「妹よ。君のせいじゃない。まあ、色々あるってことさ」
 隣にいた阿部さんも頷きます。
「そうそう。気にしないでいいよ」
 さらに佐藤さんまで、無言でこくこくと頷きました。
 一体、なんなの?

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