[始まる季節]
1:彼女のいたずら
2:わたしたちの部屋 へ
3:君に身をゆだねたい へ
4:世界一柔らかい攻撃 へ
5:花びらの秘境へ
6:若草萌える へ
7:初めての繋がり へ
8:閃光の時 へ
9:始まる夏 へ
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 七月。
 学校の図書室は普段から人が少ないのに、午後になるとさらに人が少ない。
 っていうか今、俺一人だし。 
 ムダに冷房が効いてる。
 俺はこの静かで涼しい環境の中、期末テストの勉強をしようと勉強道具を広げていた。
 が。
 全くやる気がなかった。
 なんだか、あまりのやる気のなさを持てあます。

 遠くで、野球部の金属バットが、鳴っている。
 女子テニス部のかけ声も聞こえる。
 みんな、この暑いのにすげぇなぁ。
 
 机に目を落とす。分厚い和英辞書。
 ふと思い立って、そこからエロい単語を何か引いてみようと思った。
「おっぱい……おっぱいは、ないかな……あ、あった。えーと、a boob(ア ブーブ)……口語、普通は複数形で使う……デカイおっぱい……have big boobs.(ハヴ ビッグ ブーブス)か。ほほう……」
 アンダーラインを引いていると、出入り口の戸が開く音がした。
 何気なくそちらを見ると、涼夏だった。

 彼女はうちのクラスの委員長で、俺の恋人。
 彼女こそ、まさにhave big boobs.
 その上、何でもできる完璧超人。
 非の打ち所がないとは彼女のことだ。
 完璧凡人の俺とは、全く釣り合いが取れてない。
 いまだになぜ、彼女が俺なんかを好きになったのか、不思議なくらいだ。
 唯一欠点があるとするなら、その表情の薄さだろう。
 彼氏の俺ですら、最初は全く読めなかった。
 今でこそ、ずいぶん解るようになったがそれでも、大笑いするところなんか見たことない。

 慌てて辞書のページをめくる。バカなことをしていたのを隠すためだ。
 何の躊躇もなくスタスタと俺の横まで来た。
「こんなところにいたのか」
 彼女の個性的な男口調にも、すっかり慣れた。
 俺の手元を眼鏡の奥から覗き込む。
「ん? なんだ。勉強なら、わたしがいつでも教えてやるのに」 
 俺はその言葉の意味を考える前に、今、二人きりだ、と思ってしまう。
 ドキドキした。
 その気持ちを紛らわすために、勉強に集中するフリをする。
「まあ、いずれにせよ、勉強をするのは良い事だな」
 彼女は制服のスカートをパタパタさせた。
「それにしても、外は暑いな……」
 すらりと伸びた、白く肉付きの良い生足がチラチラ見える。
 俺はなんだか気恥ずかしくなって、思わず目を背ける。
「ん? わたしのパンツ、見たいのか」
「バッ、な、えっ」
 俺は動揺する。
 見上げるとその顔は心なしか上気し、微笑んでいるようにも見える。
 彼女はゆっくり自分で、スカートをまくり上げ始めた。
 そのすそに、俺の意識が一気に集中した。
 勉強もこのくらい集中できればいいんだけど。
 ごくり……生唾を飲み込む俺。
 ゆっくり、ゆっくりスカートが上がる……。
 お、お、おおお!!
 ……
 ……
 ……って、ブルマかよ!
 委員長はガッカリした俺を見て、目を細めた。
「ひっかかったな。君は今、凄くイヤらしい目になってたぞ」
 こいつめ!俺の中から、軽い怒りが湧き上がる。
 スカートを持ち上げている、彼女の手首をぐっと掴む。
 彼女はわずかに驚いたように見えた。
 俺は手をそのままにして、しゃがむ。
 ブルマに顔を近づけて匂いをかぐ。
「委員長のここから、すごくHな匂いがするよ」
 涼夏の白い太ももが、だんだんピンク色に染まってくる。
 やがて、息も荒くなってくるのが解った。
「んん……莫迦(ばか)……ヘンタイ……」
 その眼鏡の奥の瞳には不安と期待が、交互に浮かんでは消える。
「もし……君がしたいなら……ここで……しても、いいぞ」
「こんなトコでしねーよ」
 即答して、彼女を放す。
 実は俺は正直、怖じ気づいていた。
 まだ、俺たちはHそのものをしたことはない。だから、俺には自信がないんだ。

 彼女を見ると、いつの間にかその目には興奮の色だけが浮かんでいた。
 顔は赤い。
「わたしは……したい……ぞ?」
 なんてこと言うんだ。
 それは俺の本能を強烈に刺激して、走り抜けた。
 ダメだ。
 その言葉の前には自信がないことなど、どうでも良くなってしまう。
 もう止まれない。
「い、委員長!」
 立ち上がって、彼女を力一杯抱きしめる俺。
「うっ、そんなに、抱きしめたら、苦しい」
「ああああ、ごごごめんなさい!」
 反射的に弱気なセリフを吐きながら、手をゆるめる。
「けほっ、いや、良いよ。君の熱い気持ちが伝わってきたからね。それと……」
 今度は彼女のほうから、優しく手を回す。
 俺の頭を彼女の胸に上に導いた。
 去年、夏の終わりに切った艶やかな黒髪は、もう肩まで伸びていた。
 立ちのぼる甘く爽やかな香りが、鼻腔をくすぐる。
「そろそろ、名前で呼んでくれないか……」
 少し間が空く。
「涼夏、と」

 涼夏。
 そう、心の中ではいつでも呼んでた。でも、口には出せなかった。
 なぜなら、彼女と俺とはあまりにも釣り合っていないからだ。 
 一年の時は彼女がクラスで大々的に発表したからバレバレだったけど、二年になってからは、俺たちの関係を隠している。
 彼女は、なぜ公表しないのか理解できないと言っていたが、俺はそんなに強くないんだ。
 一年の時みたいに周りに煽られるのは疲れるし……怖い。
 だから絶対、呼び捨てになんかできない。
 みんなと同じように委員長、と呼ぶのが当たり前になっていた。

 でも……今は二人きり……。
 今まででも、涼夏の家では二人きりになっていた。
 だが、今日は何か違う。図書室で二人きりだからなのか。

 顔を見ると彼女の目は、期待に満ちている。
 俺は思い切って、彼女の名前を口にした。
「……涼夏」
 俺はかすれ声でなんとか言い切る。
 その瞬間、涼夏の顔がぱぁっと輝いた。俺以外には、見せることのない表情だ。
「嬉しいぞ。キス……させてくれ」
 返事を待たずに、俺の顔を両手で包む。
 覆い被さるように、そっと唇を合わせてきた。
 俺は戸惑った。
 いつもの軽いキスが、だんだん激しい大人のキスになっていく。
 涼夏の気持ちの高ぶりがそうさせるのか。
「ん……んふぅ……ぴちゅ、ちゃっ……ちゅ……」
 静かな図書室に唇を激しく重ね合わせる音が、響く。
 俺にはそれが、やたらと大きく聞こえた。

 涼夏が唇を少し離すと、唾液が糸になってお互いの制服に垂れる。
「この気持ちはなんだ……どんどん……したくなってくる……」
 そんな事を言う涼夏の瞳には、妖しい輝きが宿っている。
 涼夏の吐息は荒い。
 俺の動揺とは裏腹に涼夏のオーラに反応する股間が、もはやマックスハート。
 ど、どうする? どうするんだよ、俺!
 俺のそのようすを見て、ふいに涼夏は出入り口に向かった。
 まるで何度も練習したかのような動きで戸を閉め、ポケットから鍵を出し掛ける。
「え、ちょ、その鍵は……」
 振り返った涼夏の瞳が、いたずらっ子のような輝きを見せた。
 それは俺でしか気付かないほどの光だ。
「図書委員も兼任している。知らなかったか?」


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